久保がチームの序列的には真ん中より上のほうと言ったけど、それは彼の技術が低いとか、そういう意味で言っているのではない。チーム内の主導権争いの中で周囲を納得させられるだけのプレーと結果をまだ見せられていないというだけ。

　昨シーズンもマジョルカで久保が主導権を握れるようになったのは、半年くらい経ってからだし、ゴールを立て続けに決めてから。ロックダウン後にようやく自分主導でボールを動かせるようになり、自分のペースでプレーの呼吸をとれるようになった。でも、あくまでリーガ１部の経験がない選手やベテラン選手の中で王様になったに過ぎない。

　ビジャレアルのこのメンバーでマジョルカと同じようにプレーできるようになるには時間がかかる。久保は確実に成長しているし、昨シーズンより上のレベルにあるのは確か。しかし、このチームは現状の久保のパフォーマンスで納得させられるほど甘くはない。例えば、放っておいてもパレホにはボールは集まるし、ジェラール・モレーノには局面でパスが集まってくる。

　日本では久保にそういう役回りを期待していると思うけど、まだまだそのレベルにはない。もちろんポテンシャルは持っているし、もっとチーム内に居場所が確立できればそういうプレーも増えてくる。けど、現状はまだそうなっていないというだけ。
 

　チームの軸となる選手だけの話をしているけど、彼らを支えている選手たちもいい選手が多い。トリゲロスにしてもメインでパスをさばく選手のために黒子役として汗をかき、それに徹することができるようになったことで今シーズンは息を吹き返している。基本的にはパレホの脇を固めることが定まっているからサイドで起用されようと、中盤だろうと汗かきのバランサーという役割は変わらない。

　これは同じ中盤のイボーラも同じで、昨シーズンとは役割が違うからきちんと戦術的に精査されたことが非常に大きい。パレホを軸にイボーラとトリゲロスの３枚で中盤をセットアップする形は見事にハマっている。守備から攻撃のバランスのとり方を含め、選手の個性を組み合わせて上手にチームの良さを引き出しているのはエメリの手腕によるところ。

　彼ら百戦錬磨の選手たちの呼吸の中に「久保がどう入っていくのか」を現地メディアも大きく話題にしているけど、冷静に考えて僕の感覚では「ちょっと早いよ」と思う。ジェラール・モレーノ、パレホ、パウ・トーレスの軸に多くの人が「久保を入れたがる」んだけど、簡単ではないから。しかも、イボーラやトリゲロス、パコ・アルカセルといったセットアップ陣も固まってきたこの段階で、その中に入っていってたった半年で結果を求めるのは酷な話だよ。

　中心の３人はスペイン代表！　久保は日本代表でだって現状は中心になれて呼吸ができているわけではない。スペイン代表でも次期エースと言われたり、セルヒオ・ラモスの後継者と呼ばれたり、他の国だったら確実に軸になれたりするような選手の間に「久保」という呼吸を加えようとしているわけだから高いハードルだよ。

　ただ何度も言うけど、久保の技術が足らないわけではなく、より高い水準での経験値とチームメイトを納得させるだけの数字を残せていないだけのこと。マジョルカとはクラブのレベルも段違いだし、所属選手のレベルも大きな差がある。そこを理解し、冷静に久保の立ち位置を見ないとメディアが才能を潰しかねないよね。ただ久保自身は一番冷静だなと勝手に思っている。