ドイツ中が注目するルール・ダービー
しかも、よりによって無観客試合が適用される可能性が高い最初の試合には「母なるダービー戦」と呼ばれる、シャルケとドルトムントのルール・ダービーが含まれている。
このダービーは、両チームのファンだけではなく、ドイツ中のサッカーファンが楽しみにしている。観客ナシのダービーマッチなど、想像することもできない。
ファンの複雑な思いを知る関係者も、現場で悲鳴を上げている。
ドイツサッカーリーグ機構(DFL)の代表取締役クリスティアン・ザイフェルトは、「我々はみな、サポーターで溢れた、普段通りのブンデスリーガを願っているさ!」と語ったうえで、冷静な判断が必要と語った。
「最終的な決定をするのは行政だ。これは、クラブやDFLがどうこうできる問題ではない。次節も満員のスタジアムでブンデスリーガが開催されてほしい。だが、残念ながら現実的な話ではない。試合は行なわれる。観客アリかナシか、どのくらいの人数ならば大丈夫なのか、当局の判断を待つしかないんだ」
そしてザイフェルトは、現時点で「無観客試合を回避するために試合を延期するという選択肢は無い」とも語った。
ブンデスは5月半ばまでにリーグの全試合を消化し、1部2部の入れ替え戦も実施しなければならない。州における試合予定もある。6月からはEURO2020も開催される。
ただでさえスケジュール調整が難しいなか、いつウイルスの感染が収束するのか予想できない状況では、試合延期の決断は不可能なのだ。
「(無観客を)回避したいという意見は理解できる。でも今は、自分たちがこれまで直面したことがない、極めて例外的な状況だ。ドイツはこの局面をうまく回避する方法を探すべきだ」
国内にとどまらず、国際親善マッチも見直しを迫られている。3月31日にニュルンベルクで開催予定のドイツ対イタリアは、ホストシティのニュルンベルク市が、イタリアサポーターの来訪を危惧し、中止の要請を出した。
欧州サッカー連盟(UEFA)も、今夏開催予定のEURO2020の通常開催が難しい場合、無観客試合や開催都市の変更といった措置もない話ではないと明らかにしている。
ドイツ、そしてヨーロッパのサッカー界、スポーツ界において、この一件が、前代未聞の事態になっていることは確かだ。だが、一刻も早く平穏が訪れ、ファンが何事もなくサッカーを楽しめる日が来ることを願わずにいられない。
筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)
ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中