なかでも演劇の経験は、人格形成において重要な役割を果たした。エムバペがデビュー当時からマイクの前できちんと発言できるのは、その経験が大きくモノを言っている。彼はフレーズを作ることができるのだ。しかも、強弱や「間」も心得ていて、発言をちょっとした「フェイント」で締めくくり、笑いで落とすことができる。
こうした表現力は現在のフットボーラーにとっても実はとても重要な要素で、それがあれば批判や論争の的になってもその拡大を防ぐことができる。
昨夏のロシア・ワールドカップでも、キリアンは達者ぶりを見せつけた。モスクワ北郊のフランス代表のキャンプ地イストラで連日行なわれた会見は、まさにキリアンの独壇場だった。それに感化されたアントワーヌ・グリエーズマンとポール・ポグバが態度を改め、報道陣に対してずっとオープンになったほどだ。「エムバペひとりにおいしいところを持っていかれるわけにはいかないと」そう思ったのだ。
かくしてエムバペは、グリエーズマンとポグバを発言できるリーダーに変えたのだった。
文:ヴァンサン・デュリュック(レキップ紙)
翻訳:結城麻里
※『ワールドサッカーダイジェスト』2018年9月20日号より転載
