【天皇杯】両者の思いが交錯したJ2対決 山形と北九州の大いなる野心

カテゴリ:Jリーグ

頼野亜唯子

2014年10月16日

J1ライセンスがないチームが存在感を見せるには、決勝で勝つことが一番だった。

北九州の主将・前田(5)は、「今年一番悔しい試合」と肩を落とした。リーグ戦で再びチームの存在価値を示したい。(C)2014 MONTEDIO YAMAGATA

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 ゲームは、北九州の堅い守りを山形の攻撃がいかに崩すかという、両チームの特徴を反映した試合になった。山形は北九州のブロックの外から積極的にミドルシュートを打つが枠を捉えられず。サイドからの狙いも厚い守備を前にスピードダウンせざるを得ない。前半を0-0で折り返し、後半もまた攻める山形。時計が進むにつれて、山形がチャンスを逃した時のスタンドからの落胆の響きが大きくなる。
 
 そんな空気が一変したのは79分。65分に途中出場した伊東が、宮阪からのクサビのパスを足裏で落とすと、それを受けた川西が持ち出し左足を振り抜く。伊東と川西は青森山田の先輩・後輩。4回戦の鳥栖戦に勝った直後から、「天皇杯は優勝したい」と口を揃えて言っていたふたりだ。息の合ったコンビプレーが生んだ鮮やかなゴールが、準決勝進出を決める決勝点となった。
 
 北九州は、11日に栃木とのアウェーゲームを戦っており、中3日のアウェー連戦。しかも、台風を避けて試合前々日に山形入り。前日は地元の高校のグラウンドを借りて練習を行なった。柱谷監督の「言い訳はしない」という言葉が、逆にコンディション調整の困難さを窺わせた。
 
 北九州にとって、2つのJ1クラブを破ってベスト8まで勝ち進んだ天皇杯は、どんな意味があったのか。柱谷監督はこう振り返る。
 
「正直言って、クラブも北九州の人たちも、ベスト8やベスト4というイメージはなかったと思う。しかし、我々はその可能性を見せることができた。ベスト4、決勝は決してテレビの前で見るものではなく、そこまで行ける力をつけてきたことを証明できたのではないかと思う」
 
 ミックスゾーンに現われた北九州の主将・前田和哉は、落胆を隠さなかった。
「今年一番悔しかった試合。なんでもっと戦う姿勢を見せられなかったか。もっとそれを貪欲にグラウンドで表現しなくちゃいけない」
 
 J1ライセンスを持たずに戦うリーグ戦とは、やはり違うモチベーションがあった天皇杯。それだけに、その気持ちをプレーに出せなかったことが悔しいと言う。
「J1ライセンスもない弱いチームが存在感を示すには、決勝に行って勝つことが一番のメッセージになる」
 
 ライセンスがないからこそ、天皇杯で優勝してみせたかったと前田は言う。とすれば、北九州にとって次にメッセージを発信するチャンスはリーグ戦だ。クラブはJ1ライセンスを持たないが、チームにはJ1に挑戦する力があるのだと、6位以内に残って示さなければならない。もちろん簡単ではない。ここからが、プレーオフという明確な目標を持ってラストスパートをかけてくるチームとの、そして自分たちのモチベーションとの、本当の戦いになる。
 
「自分たちはJ1ライセンスもない、降格もない。何を目指して行くのかは本当に難しい。でも、6位以内に入って、でもプレーオフには行けないんだというメッセージを送るしかない。たとえその気持ちを強く持てたとしても、もっと上の目標を持っているチームの方が気持ちは入る。それでも、それに打ち勝たなければ、自分たちの未来はないと思う」
 
 一昨年まで山形に在籍した前田は、取材対応を終えて元のチームメートと談笑していた。前田ら北九州の選手たちが抱える複雑な思いが、山形の選手たちに伝わっているかどうかは分からないが、敗れし者たちの悔しさをも引き受けて次の戦いに臨むのが、トーナメントの勝者の義務だろう。
 
 試合後の会見で「クラブ初の4強進出、何が良かったのか?」と聞かれた石崎監督は「くじ運が良かった」と答えて報道陣の笑いを誘ったが、準決勝の相手もJ2の千葉。貪欲に狙って行くだろう。続けて指揮官は「J2が優勝したらACLに行くのが大変ですね」と話したが、その時はその時。勝つことを目指さないサッカーなんてない。山形は、天皇杯優勝を狙っている。石井TDもクラブ初のタイトル奪取へ、色気たっぷりだ。
 
「優勝したら、俺、個人的に連覇なんだよ」
 今季、横浜から山形にやって来た男は、そう言って楽しそうに笑った。
 
取材・文:頼野亜唯子(フリーライター)
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