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「理不尽で激しい怒りは、いまならアウト」熱血漢トルシエは黄金世代をいかにして鍛え上げたのか

カテゴリ:日本代表

田村修一

2019年04月24日

指揮官が重視したのは精神的・人間的な側面

ワールドユース本番直前のブルキナファソ合宿。トルシエは選手たちを未知の世界へと引き入れた。写真は皇帝を謁見した際の記念ショットだ。(C)SOCCER DIGEST

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 ピッチ上の技術・戦術と同等か、それ以上にトルシエが重視したのが精神的・人間的側面だった。
 
 選手同士の間ですらコミュニケーションがとれない人間が、5万人の観衆の前で自分を表現することなどできない。人間として経験を積み、成熟することでサッカー選手としても一人前になれる。彼が黄金世代の若者たちに求めたのは、自分の殻の中に籠らず殻を破って自分を表現することであり、ひとりの人間として現実の世界に目を向け、それと対峙することだった。
 
 ピッチの上では受け手の名前を言ってからパスを出すこと(パス・コントロール)にはじまり、ピッチの外ではさまざまな体験に選手たちを誘った。
 
 ナイジェリアでのワールドユース(現U-20ワールドカップ)本大会の2か月前に行なわれたブルキナファソ合宿は、彼らにはすべてが未知の出来事ばかりだった。アフリカでもっとも経済水準が低い国で、現地のものしか食べさせなかった食事。数時間かけて悪路を行くバス移動。冷房も効かず、寝室の中を一晩中蚊が飛び交うホテル。茶色い水しかでない水道。サッカーボールは貴重品で、ユース代表選手ですら古いスパイクを大事に履いている。そしてそんな環境で、彼らはサッカーをしている。
 
 移動の途中ではワニ園に立ち寄り、皇帝や国家元首への敬意訪問も行なった。ホテルのバーでは選手たちが楽器を奏でながらダンスも踊った。さらに大会期間中のナイジェリアでは孤児院も訪問した。

 
 選手たちを精神的に逞しくタフにさせるうえで合宿の効果は絶大だった。2か月後のナイジェリアの厳しい環境にも、彼らはまったく動じなかったのだから。ブルキナファソよりずっと過ごしやすいとむしろリラックスしているほどで、稲本はじめ幾人かの選手たちは、にわかに日本贔屓となった地元のサポーターたちと、試合後一緒に楽しそうにダンスを踊っていた。
 
 そうした体験を通じてトルシエが彼らに伝えたかったのは、人間が人間としてサッカーをすることの意味、であったように思う。2次元のゲームにもバーチャルリアリティーにも置き換えられない現実の中でサッカーをするのはどういうことか。技術・戦術・フィジカルの要素だけに還元できない、人と人とがリアルに交じり合う世界でサッカーをするのはどういうことであるのか……。
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