同じく問題児のスアレスをワールドクラスに育て上げた自負。
いよいよ手詰まりになったその時に浮上したのが、バロテッリの名前だった。ミランは手放す用意があると聞きつけたロジャースは、先入観を捨て、改めて調査に乗り出した。
インテル、ミラン、マンチェスター・シティと、かつてバロテッリが所属したクラブの関係者に当たって調査を進めた。そして話を聞けば聞くほど、関心が強くなっていった。複雑な生い立ち(イタリアに移住したガーナ人の両親の下に生まれ、イタリア人夫妻に養子に出される)が問題行動を取らせてきたようだが、ファミリー的な環境と雰囲気を築いたここアンフィールド(リバプールの本拠地)でなら、バロテッリを正しく導いていけるはず――。ロジャースは、そう考えるに至るのだ。
折も折、ミランは要求額を引き下げる軟化を見せた。精彩を欠いたワールドカップでの不出来も重なり、バロテッリの買い手が見つからなかったのだ。放出を前提にチーム作りを進めていたミランにとって、週給20万ポンド(約3400万円)の高給取りをこのまま手元に置いておくのは、財政的に大きな誤算だった。3000万ポンド(約51億円)の移籍金を、一気に1600万ポンド(約27億2000万円)まで引き下げる叩き売りをはじめたのだ。
前述したように、才能に疑いの余地はない。シティでプレーした2年半のプレミア経験があり、54試合で20得点とピッチでは結果を残している。ロジャースはバロテッリの獲得を決意した。
インテル時代に指導したあのジョゼ・モウリーニョが、「unmanageable(監督不可能)」と匙を投げたバロテッリの獲得は、たしかにギャンブルだ。名うての悪童は、シティ在籍時にも次から次へとトラブルを巻き起こしている。
バスルームでロケット花火を打ち上げたり、ユースの選手をダーツの的にしたり、駐車違反を繰り返したり。チームメイトとの口論は序の口で、父親のように接したロベルト・マンチーニ監督(当時)とも諍い絶えず、つかみ合いの喧嘩騒動も起こしている。
それでもロジャースにはある確信がある。いまのバロテッリは、過去のバロテッリとは違うという確信だ。人の親となり、精神的に成長した。3時間半に渡る本人との話し合いから、ロジャースはそう感じ取ったのだ。リバプールというクラブでプレーすることの意味、アンフィールドのピッチに立つことの意味を、ロジャースはバロテッリにこんこんと説き、分かり合えたという。
「計算づくのリスクだ」とロジャースは笑う。
スアレスという問題児を真のワールドクラスへと磨き上げ、やる気を失いつつあったダニエル・スターリッジを再生し、決して優等生とは言えなかったラヒーム・スターリングを育て上げた自負もあるだろう。
ロジャースとバロテッリは、幸せなストーリーを描けるのだろうか。注目だ。
【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース/リバプール・エコー
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。
【翻訳】
松澤浩三
インテル、ミラン、マンチェスター・シティと、かつてバロテッリが所属したクラブの関係者に当たって調査を進めた。そして話を聞けば聞くほど、関心が強くなっていった。複雑な生い立ち(イタリアに移住したガーナ人の両親の下に生まれ、イタリア人夫妻に養子に出される)が問題行動を取らせてきたようだが、ファミリー的な環境と雰囲気を築いたここアンフィールド(リバプールの本拠地)でなら、バロテッリを正しく導いていけるはず――。ロジャースは、そう考えるに至るのだ。
折も折、ミランは要求額を引き下げる軟化を見せた。精彩を欠いたワールドカップでの不出来も重なり、バロテッリの買い手が見つからなかったのだ。放出を前提にチーム作りを進めていたミランにとって、週給20万ポンド(約3400万円)の高給取りをこのまま手元に置いておくのは、財政的に大きな誤算だった。3000万ポンド(約51億円)の移籍金を、一気に1600万ポンド(約27億2000万円)まで引き下げる叩き売りをはじめたのだ。
前述したように、才能に疑いの余地はない。シティでプレーした2年半のプレミア経験があり、54試合で20得点とピッチでは結果を残している。ロジャースはバロテッリの獲得を決意した。
インテル時代に指導したあのジョゼ・モウリーニョが、「unmanageable(監督不可能)」と匙を投げたバロテッリの獲得は、たしかにギャンブルだ。名うての悪童は、シティ在籍時にも次から次へとトラブルを巻き起こしている。
バスルームでロケット花火を打ち上げたり、ユースの選手をダーツの的にしたり、駐車違反を繰り返したり。チームメイトとの口論は序の口で、父親のように接したロベルト・マンチーニ監督(当時)とも諍い絶えず、つかみ合いの喧嘩騒動も起こしている。
それでもロジャースにはある確信がある。いまのバロテッリは、過去のバロテッリとは違うという確信だ。人の親となり、精神的に成長した。3時間半に渡る本人との話し合いから、ロジャースはそう感じ取ったのだ。リバプールというクラブでプレーすることの意味、アンフィールドのピッチに立つことの意味を、ロジャースはバロテッリにこんこんと説き、分かり合えたという。
「計算づくのリスクだ」とロジャースは笑う。
スアレスという問題児を真のワールドクラスへと磨き上げ、やる気を失いつつあったダニエル・スターリッジを再生し、決して優等生とは言えなかったラヒーム・スターリングを育て上げた自負もあるだろう。
ロジャースとバロテッリは、幸せなストーリーを描けるのだろうか。注目だ。
【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース/リバプール・エコー
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。
【翻訳】
松澤浩三