「それもこれも、自分自身の力不足だからです。現実を真摯に受け止め、ならば、異なる仕事を選ぼうと、正直、転職のことも視野に入れ始めていました」

　知人からスポーツ関係の仕事を斡旋され、他にもぜひスタッフとして来てみないかという連絡も入った。2017年に在籍した松本、出身である熊本の方たちから、面倒を見るぞと、むしろ温かい言葉をもらった。

　すると28日、自主トレを続けていた熊本でキャンプを張るレノファ山口から連絡が入った。

「練習参加に来ないか」

　霜田正浩監督が就任したチームが、GKをさらに必要としていた。もちろん、藤嶋は二つ返事でこのチャンスに懸け、そして契約を勝ち取った。

「就職のお世話まで考えてくれた方たちに、『すいません。お陰様で、サッカーを続けられることになりました』と報告しました。すると『本当に良かった。一生懸命、応援するぞ』と温かい言葉をもらいました」

　胃の痛んだ時期だった。ただ、改めて、このサッカー人生は、多くの人に支えてもらっているのだと実感する貴重な時間にもなった。

　水を得た魚のようにピッチで過ごす時間に全力を注いだ藤嶋は、そこから這い上がり昨季25試合に出場した。2018シーズンのチームGK陣で最多出場である。

　するとこのオフ、川崎からオファーが届き、今季末までレンタル移籍することになった。

「こうして素晴らしいサポーターがいて、素晴らしい環境でサッカーができることは当たり前ではない。それを、本当に実感していました。チャンスをいただいて、失うものは何もないので、すべてを出してチャレンジしていきたいです」

　いろんな人たちに押し上げられて、“日本一”のサポーターに支えられる川崎のスカッドに加わった。

　もちろん外ならぬ藤嶋の粘りと並々ならぬタフな精神力、それに明るさ、何よりサッカーが大好きだという気持ちがあったからこそ、縁はつながっていった。

　１年前の無職状態から、チャンピオンチームの一員への転身。３連覇と４冠に向かう川崎で、藤嶋は欠かせないピースになっていきそうだ。

取材・文：塚越 始