闇のなかに灯された光

クロースを除く黄金時代の功労者たちが精彩を欠くなかで、この秋の代表戦では若い力が台頭してきた。ロシアW杯前から主力だったヴェルナー、ザネに加え、ニャブリ、ハベルツ、ケーラーら……。世代交代はスムーズに進むだろうか。 (C) Getty Images
そして、レーブ監督が「非常にアイデアがあり、スピードがあった。素晴らしいハーモニーでプレーできている」と称賛したのが、新しいFWトリオだ。ポジションを変えながらパスを引き出し、味方が前を向いてパスを受けたら、最速力でスペースへ抜け出していく。そこへクロース、キミッヒ、フンメルスから、パスがどんどん配球されていった。
そこには、ロシアW杯でのドイツ代表に見られなかった、「攻め切ろう」という意欲がとても溢れていた。
そこには、ロシアW杯でのドイツ代表に見られなかった、「攻め切ろう」という意欲がとても溢れていた。
苦しい1年の最後を、勝利で飾ることはできなかった。わずかながらに掴んだ手応えに、全てを委ねていくわけにもいかない。まだまだ改善し、修正していかなければならないことがある。
レーブ監督も、そこを指摘する。
「今はまだプロセスなので、言葉にするのは難しい。代表チームでは、特にそうだ。4か月試合がなく、次の試合は来年3月だ。怪我人も出るかもしれない。代表ではいつでも、変更が起こりうるものだ。個々の選手の、その時々のパフォーマンスにもよる」
「だが、我々の選手層のなかでは、良いミックスが成されていると思う。若い選手にチャンスを与え、経験を積んでもらう。そのなかでも、経験を持った選手が何人かいる状況が重要だと思うし、それが成功に繋がっていくと思っている」
そのためには、彼らがそれぞれの所属クラブで、また成長していかなければならない。そしてドイツが今後、またビッグトーナメントで好成績を残していくためには、攻撃のタクトを担う選手が欠かせない。ロシア戦で活躍したカイ・ハベルツには、その点で大きな期待がかかる。
レーブ監督は、「カイはすでに、我々にとって欠かせない戦力になっている。トレーニングでも、もう長いあいだ代表チームにいたかのようにプレーしている。あの歳(19歳)で代表チームやブンデスリーガで自分のプレーを示し、さらにゴールへの危険性も備えている。素晴らしいクオリティーだ」と、高く評価している。
キミッヒも、「スペースで良い動きを見せてくれる。バイエルンでもできる選手だ」と、レバークーゼン所属の逸材にラブコールを送った。
ヴェルナー、ニャブリ、あるいはハベルツ。彼らがブンデスリーガでどのようなプレーを見せ、どのような風を代表チームにもたらすか。
闇のなかに灯された光――。
今後の彼らの活躍を期待したい。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。