名古屋の最終ラインを司ったひとり、櫛引は「なかなか取りに行ってもはがされたりして、結局はペナルティエリアぐらいにブロックを作るぐらいしかできませんでした」と振り返る。ただそのブロックにしてもゴール前に人垣を作っているだけで、イニエスタにループパスで突破されてポドルスキの先制点を許している。２分前にも同じ形で裏を取られかけているにもかかわらず、である。
 
　札幌戦の失点もそうだったが、名古屋の守備はいま、ポジショニングに気を取られすぎて足が止まってしまうことが多すぎる。自分たちはパスをつなごうとしたところに強いプレッシャーをかけられ、ボールを逃がすばかりになっているのだから、“ボールを奪いに来る”という行為がポゼッション主体のチームにとってどれだけ嫌なことかは理解しているはず。なにがなんでも行けば良いというわけではないが、それにしても名古屋は待ちすぎた。
 
　後半になってフォーメーションを３バックに戻し、開始早々の22秒で縦の大きな展開から玉田圭司が同点ゴールを決めたのは、ある意味では皮肉なことだ。その方が良かったと言うつもりはない。ただ、そうしたダイナミックな動きやプレー選択、布陣による役割の明確化が主導権争いの中では有効なオプションになるのだと証明したのは間違いない。後半の45分はそうやって攻撃に迫力を取り戻した名古屋が攻め、神戸がカウンターから挽回する流れが続いたが、双方に決め手を欠くせめぎ合いの中で優位性を保っていたのはやはり神戸だった。
 

　試合も85分に最終ラインからの縦パス一本で右サイドに抜け出したポドルスキが、櫛引との１対１を重戦車のようなドリブルから制して決勝点をマーク。カットインしてくる神戸の10番には最後まで櫛引が食らいついていたが、「最後は腕の力で負けたという感じ」(櫛引)と元ドイツ代表のスキルの前にあえなく敗北。ハンドオフでDFとの距離を稼ぎ、強いシュートを打つ間合いを生み出す技術には舌を巻くほかない。
 
　だが、名古屋のディフェンスラインとしてはもう少しカバーできたのではないかという気がしないでもない。なにが正解かは結果のみが判断基準となるが、ペナルティエリアを横断するようにドリブルする選手にはやはり圧力をかけなければいけない。元ドイツ代表FWに自分主導で１対１を進めさせるのは、そうでなくとも得策ではない。