“腰の引けた”戦いをファンもOBも酷評…

6節に0-5の大敗を喫してから、ハンブルクは3試合連続で無得点。対照的にザンクトパウリはこの3試合で2勝1分けと好調である。ダービー後の表情も対照的だった。日本人では、酒井高徳はフル出場、伊藤達哉は後半途中から出場、宮市亮はベンチ入りも出番は訪れなかった。 (C) Getty Images
ただ、筆者も含め、ファンも関係者も、あまりに妄想を膨らませ過ぎてしまったのかも入れない。そして、あまりにも久しぶりのダービー過ぎて、どちらのクラブを負けることを恐れてしまったのかもしれない……。
中盤では、何度も激しい競り合いが見られた。闘争心はどちらも凄い。だが、そこからさらに試合が盛り上がることはなかった。90分間、両チームに大きなチャンスがほとんどないまま試合は進み、結局、スコアレスドローで終了。凄い試合を期待していたファンからは、がっかりのブーイングも聞かれた。
中盤では、何度も激しい競り合いが見られた。闘争心はどちらも凄い。だが、そこからさらに試合が盛り上がることはなかった。90分間、両チームに大きなチャンスがほとんどないまま試合は進み、結局、スコアレスドローで終了。凄い試合を期待していたファンからは、がっかりのブーイングも聞かれた。
ハンブルクのOBで伝説のFWであるウーベ・ゼーラは休暇中で、この試合はテレビ観戦。「だが今回に限っていえば、何も逃していないと思う。何がされていたかも分からないくらいだ。間違いなく、良くはなかった。これでは、クラブ愛に厚いファンを裏切ることになり、素晴らしいスタジアムを空っぽにしてしまう」と嘆いた。
かつて、ここでプレーしていた元クロアチア代表FWのイビチャ・オリッチは、「今まで自分が見たなかで、一番良くないダービー。どちらも、失点を恐れていた。ハンブルクはホームで、もっとオフェンシブなプレーを見せるべきだった。ファンにとっては、がっかりのダービーだっただろう」と振り返っている。
ふたりの指摘も、ごもっともではある。特にここまで2試合連続無得点だったハンブルクは、攻撃のリズムを失っており、ザンクトパウリに余裕を持って対応された。
ティッツ監督にも、迷いが見られる。チーム内得点王のピエール=ミシェル・ラソッガはベンチスタート。これにはゼーラーも、「なぜ、(カーレド・)ナレイやラソッガといったオフェンシブな選手が、ベンチにいるんだ? 理解したくもない」とコメントしている。
後半になり、ようやくナレイ、ラソッガ、そして伊藤達哉が投入され、多少はゴールへの勢いが見られるようになったものの、決定機の創出までには至らなかった。
試合後、帰りの電車のなかでひとりのハンブルク・ファンが、「こんな試合にお金出すなら、美味しいものでも食べに行った方が良かったよ。俺はもう行かないぜ!」と、友だちに電話でまくし立てていた。
7年半ぶりのダービーは、不完全燃焼に終わってしまった。だが今シーズン、少なくとももう1試合はあるわけだ。そして今度は、熱狂度ではドイツでも1、2を誇るとされているパウリでの試合だ。今回の試合に不満を持ったファンも、なんだかんだ言いながら、次のダービーを楽しみにすることだろう。
互いのアイデンティティーを懸けて――。フェアさは残しながらも、もっと勇敢で激しく、ファンの心を揺さぶる試合が見られることを願っている。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。