ピッチ上はさながら鬼軍曹、ピッチ外では恐妻家の…
Jリーグにおけるパトリックの代表的なゴールは、やはり1年目の開幕戦、ベルマーレ平塚戦のリフティングボレーだろうか。私も万博であのゴールを目撃したが、実はさほど驚かなかった。免疫があったからかもしれない。
その1週間前、同じ万博で行なわれたナビスコカップ予選のコンサドーレ札幌戦だった。終了間際、ゴール左45度、およそ30メートルの位置から軽く左足を振り抜いたパトリック。ボールは驚異的なスピードでグングンと伸び、逆のサイドネットに突き刺さった。何百試合も観たJリーグで、開いた口が塞がらなかったゴールはあれっきりだ。ガンバの広報部長からニックネーム転用を打診されたのは、この衝撃弾の数日後である。場内アナウンスのコールで使いたい、ということだった。
その1週間前、同じ万博で行なわれたナビスコカップ予選のコンサドーレ札幌戦だった。終了間際、ゴール左45度、およそ30メートルの位置から軽く左足を振り抜いたパトリック。ボールは驚異的なスピードでグングンと伸び、逆のサイドネットに突き刺さった。何百試合も観たJリーグで、開いた口が塞がらなかったゴールはあれっきりだ。ガンバの広報部長からニックネーム転用を打診されたのは、この衝撃弾の数日後である。場内アナウンスのコールで使いたい、ということだった。
パトリックは本当に気さくなナイスガイだった。お父さんはカメルーンのエリート外交官で、2歳でパリに移り住んだ都会っ子。流暢な英語を話し、知性に溢れ、なによりとてもいい匂いがした(デイビッド・ベッカムに匹敵)。だが、当時のカメルーン代表からはなかなかお呼びがかからなかった。理由を尋ねると少し寂しそうな表情で、「いろいろあるんだよ。僕は本国育ちじゃないからね。サッカー協会も代表選手たちも快く思っていないところがある」と明かしてくれた。それでもJリーグでのゴールラッシュが認められて常時招集されるようになると、フランス・ワールドカップ予選でMVP級の働きを見せ、チームを本大会に導いてしまうのだ。あっという間にエースに上り詰めたのだから、分からないものである。
ガンバ入団直後から何度もインタビュー取材をさせてもらい、すっかり仲良くなった。同い年だったので、「日本語ではこれを“タメ”と言うんだ」と教えると、次に会ったときから私のことを「タメさん」と呼ぶようになった。小バカにしているのだ。意味が分かっていない、違う違うと言ってもやめないので、私も彼を「ミッキーちゃん」と呼ぶことにした。普段着でよく着込んでいたのが、胸元にミッキーマウスがドデかく描かれた可愛らしいトレーナーだったからだ。「すごく好きなんだよ」と話していた。
ピッチ外では人格者のパトリックも、ピッチ上ではさながら鬼軍曹だったという。稲本潤一は17歳だった当時を振り返り、「パトリックには少しでもパスミスをしたら怒鳴り散らされてましたよ。とくに自分へのパスがズレるとえらい剣幕で。むっちゃ怖かった」と話す。
そんな彼にも、頭の上がらない人物がいた。年上女房でイスラエル出身のギラさんだ。取材後にパトリックを食事に誘ったことがあるが、「家で彼女の料理を食べないと。寄り道なんかしたらとんでもないことになる」と、震える仕草で笑わせた。完全なカカア天下だったのである。その一方で、「怪我をしているときも悩んでいたときもずっと傍にいてくれた。『素晴らしい国で一緒にやり直しましょう』と日本行きを強く勧めてくれたのも彼女だったんだ」と、のろけるのだ。
ガンバ入団直後から何度もインタビュー取材をさせてもらい、すっかり仲良くなった。同い年だったので、「日本語ではこれを“タメ”と言うんだ」と教えると、次に会ったときから私のことを「タメさん」と呼ぶようになった。小バカにしているのだ。意味が分かっていない、違う違うと言ってもやめないので、私も彼を「ミッキーちゃん」と呼ぶことにした。普段着でよく着込んでいたのが、胸元にミッキーマウスがドデかく描かれた可愛らしいトレーナーだったからだ。「すごく好きなんだよ」と話していた。
ピッチ外では人格者のパトリックも、ピッチ上ではさながら鬼軍曹だったという。稲本潤一は17歳だった当時を振り返り、「パトリックには少しでもパスミスをしたら怒鳴り散らされてましたよ。とくに自分へのパスがズレるとえらい剣幕で。むっちゃ怖かった」と話す。
そんな彼にも、頭の上がらない人物がいた。年上女房でイスラエル出身のギラさんだ。取材後にパトリックを食事に誘ったことがあるが、「家で彼女の料理を食べないと。寄り道なんかしたらとんでもないことになる」と、震える仕草で笑わせた。完全なカカア天下だったのである。その一方で、「怪我をしているときも悩んでいたときもずっと傍にいてくれた。『素晴らしい国で一緒にやり直しましょう』と日本行きを強く勧めてくれたのも彼女だったんだ」と、のろけるのだ。