上層部が心配するほどの熱の入れよう
こうした優れた人間掌握術に関しては、代表取締役クレメンス・テンニスも舌を巻く。「そんな監督は、今までひとりもいなかった。ドメニコは人間を惹きつけるんだ」と絶賛している。
首脳陣が心配しているのは、あまりの仕事への熱の入れようで倒れやしないかという点だ。チームマネジャーのクリスティアン・ハイデルはクリスマス前、テデスコの奥さんであるカメラさんに「どうか、休みの日ぐらい彼がサッカーを考えないでいられるよう、気を配ってあげて下さい」と直筆の手紙を送ったという。
テンニス代表取締役は、「彼に電話をかける時はいつも、何時間寝ているんだ? と尋ねている。少しは家族と散歩に行きなさいと勧めるんだ」と話していた。来シーズン、CL出場となると負担もさらに増すため、テンニスは試合分析のスペシャリストを、テデスコのために招聘する意向だという。
シャルケ・ファンは、クラブのために闘う男を愛する。ダービーの後、ここまでシャルケに心血を注ぎチームを立て直してくれた監督と、ファンは一緒に喜び合いたかった。熱狂的なファンで埋まるゴール裏から、テデスコは柵の上に登ってきてほしいと呼ばれた。
普段は、試合で素晴らしい活躍をした選手が呼ばれ、マイクを片手にファンと一緒に勝利の歌を歌う。監督が呼ばれたことは、今まで一度もなかったという。
テデスコは、「あそこに立つことが許されるのは、特別なことだよ。本当だったら、チーム全員であそこにいくのが相応しいけど……。最初は行かないでおこうかとも思った。でもそうしたら、ファンのみんなの気持ちを無下にしてしまうから」と振り返っていた。
テデスコがマイクを持って叫ぶ。ファンが笑顔でコールを返す。永遠のライバル、ドルトムントに快勝した。来シーズン、また欧州の舞台に戻れる。シャルケらしさが感じられる試合が見られる――。様々な喜びが、ファンを弾けさせていた。
テンニスは、「全ての仕事が報われたと言える日がある」と語っていたが、この日のフェルティンス・アレーナには、これ以上ないほどの充足感が満ち溢れていたことだろう。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。
首脳陣が心配しているのは、あまりの仕事への熱の入れようで倒れやしないかという点だ。チームマネジャーのクリスティアン・ハイデルはクリスマス前、テデスコの奥さんであるカメラさんに「どうか、休みの日ぐらい彼がサッカーを考えないでいられるよう、気を配ってあげて下さい」と直筆の手紙を送ったという。
テンニス代表取締役は、「彼に電話をかける時はいつも、何時間寝ているんだ? と尋ねている。少しは家族と散歩に行きなさいと勧めるんだ」と話していた。来シーズン、CL出場となると負担もさらに増すため、テンニスは試合分析のスペシャリストを、テデスコのために招聘する意向だという。
シャルケ・ファンは、クラブのために闘う男を愛する。ダービーの後、ここまでシャルケに心血を注ぎチームを立て直してくれた監督と、ファンは一緒に喜び合いたかった。熱狂的なファンで埋まるゴール裏から、テデスコは柵の上に登ってきてほしいと呼ばれた。
普段は、試合で素晴らしい活躍をした選手が呼ばれ、マイクを片手にファンと一緒に勝利の歌を歌う。監督が呼ばれたことは、今まで一度もなかったという。
テデスコは、「あそこに立つことが許されるのは、特別なことだよ。本当だったら、チーム全員であそこにいくのが相応しいけど……。最初は行かないでおこうかとも思った。でもそうしたら、ファンのみんなの気持ちを無下にしてしまうから」と振り返っていた。
テデスコがマイクを持って叫ぶ。ファンが笑顔でコールを返す。永遠のライバル、ドルトムントに快勝した。来シーズン、また欧州の舞台に戻れる。シャルケらしさが感じられる試合が見られる――。様々な喜びが、ファンを弾けさせていた。
テンニスは、「全ての仕事が報われたと言える日がある」と語っていたが、この日のフェルティンス・アレーナには、これ以上ないほどの充足感が満ち溢れていたことだろう。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。