集客力が弱いから選手を育てるしかない。
――VNからはどんな選手が出ていますか。
例えば2014年、VNは国内のカップ戦を制しましたが、優勝メンバー9人がアカデミー出身者でした。その中の3人が西側で活躍しています。ラツィオのMFセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチと、その弟のトリノで活躍するGKヴァンヤ、さらにはセルタのボランチ、ネマニャ・ラドヤです。
――世界のサッカー界では育成は移籍金を得るためにビジネスとセットになっていて、選手を「売る」、「買う」と表現します。彼らを育てたことで、VNはどれくらいの収入があったのですか。
セルゲイについては、まずベルギーのヘンクに9千万円で移籍し、そこからさらにラツィオに12億円で移籍しましたが、今ではマンチェスター・ユナイテッドから100億円、パリ・サンジェルマンから140億円という破格のオファーが届いています。こうしたメガクラブに引き抜かれると、育成元のVNにも一定のお金が入る。仮にマンUに行くとすると、年間運営費の2倍に相当する金額がVNに入るので、関係者は売れてほしいと願っていますよ。
――育てて売ったお金でクラブを運営しているわけですね。
VNをはじめとした旧ユーゴのクラブが育成に優れているのは、ひとつには育てなければクラブが潰れてしまうからです。
例えばVNはトップチームの試合でも、千人前後しかお客さんが入りません。国が分裂する前は各地の強豪が対戦して盛り上がっていましたが、セルビアだけでリーグを運営することになり、弱小クラブを1部に上げざるを得なくなってしまいました。こうなるとレベルは低下して、レッドスターやパルチザンとの試合くらいしかお客さんが入りません。
――入場収入はほとんど見込めないわけですね。
そうです。お金がないので環境も悪い。スタジアムは老朽化が著しく、練習場のようなところでトップリーグの試合が行われることも珍しくありません。
そうそう、ベオグラードにはFKラドというクラブもありますが、トイレに行こうとすると「水を流すな!」と注意されました。一度流すと止まらなくなるようで……。
――日本では考えられない環境ですね。
セルビアは国民の平均月収が5万円程度の貧しい国。産業も少ないので、集客だけでなくスポンサー収入も期待できない。そういう環境では、選手を育てて売るしかありません。
実際にFKラドはトイレが壊れているのに、42人も選手を輩出しています。これは前述したランキングでは14位。トップチームは弱いですが、育成実績はヨーロッパでも有数です。
(中編に続く)
◆プロフィール
酒井 良(さかい・りょう)/1977年8月9日生まれ、神奈川県出身。桐光学園高―東京農業大―湘南-山形―沖縄かりゆしFC-草津(現群馬)-町田。現役時代は、おもに湘南、山形、草津在籍時にJ2でプレー。その後、加入した町田ではチームを関東リーグ2部の時から支え続け、J2昇格へ導く原動力に。2012年限りで現役を引退し、翌年に指導者に転向。町田のアカデミーで育成に携わる。
取材・文●熊崎 敬(スポーツライター)
例えば2014年、VNは国内のカップ戦を制しましたが、優勝メンバー9人がアカデミー出身者でした。その中の3人が西側で活躍しています。ラツィオのMFセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチと、その弟のトリノで活躍するGKヴァンヤ、さらにはセルタのボランチ、ネマニャ・ラドヤです。
――世界のサッカー界では育成は移籍金を得るためにビジネスとセットになっていて、選手を「売る」、「買う」と表現します。彼らを育てたことで、VNはどれくらいの収入があったのですか。
セルゲイについては、まずベルギーのヘンクに9千万円で移籍し、そこからさらにラツィオに12億円で移籍しましたが、今ではマンチェスター・ユナイテッドから100億円、パリ・サンジェルマンから140億円という破格のオファーが届いています。こうしたメガクラブに引き抜かれると、育成元のVNにも一定のお金が入る。仮にマンUに行くとすると、年間運営費の2倍に相当する金額がVNに入るので、関係者は売れてほしいと願っていますよ。
――育てて売ったお金でクラブを運営しているわけですね。
VNをはじめとした旧ユーゴのクラブが育成に優れているのは、ひとつには育てなければクラブが潰れてしまうからです。
例えばVNはトップチームの試合でも、千人前後しかお客さんが入りません。国が分裂する前は各地の強豪が対戦して盛り上がっていましたが、セルビアだけでリーグを運営することになり、弱小クラブを1部に上げざるを得なくなってしまいました。こうなるとレベルは低下して、レッドスターやパルチザンとの試合くらいしかお客さんが入りません。
――入場収入はほとんど見込めないわけですね。
そうです。お金がないので環境も悪い。スタジアムは老朽化が著しく、練習場のようなところでトップリーグの試合が行われることも珍しくありません。
そうそう、ベオグラードにはFKラドというクラブもありますが、トイレに行こうとすると「水を流すな!」と注意されました。一度流すと止まらなくなるようで……。
――日本では考えられない環境ですね。
セルビアは国民の平均月収が5万円程度の貧しい国。産業も少ないので、集客だけでなくスポンサー収入も期待できない。そういう環境では、選手を育てて売るしかありません。
実際にFKラドはトイレが壊れているのに、42人も選手を輩出しています。これは前述したランキングでは14位。トップチームは弱いですが、育成実績はヨーロッパでも有数です。
(中編に続く)
◆プロフィール
酒井 良(さかい・りょう)/1977年8月9日生まれ、神奈川県出身。桐光学園高―東京農業大―湘南-山形―沖縄かりゆしFC-草津(現群馬)-町田。現役時代は、おもに湘南、山形、草津在籍時にJ2でプレー。その後、加入した町田ではチームを関東リーグ2部の時から支え続け、J2昇格へ導く原動力に。2012年限りで現役を引退し、翌年に指導者に転向。町田のアカデミーで育成に携わる。
取材・文●熊崎 敬(スポーツライター)