小林が思い描くキャプテン像が固まりつつある一方で、その姿を昨季までの主将である中村憲剛は次のように見ているようだ。
 
「今日の悠はボールも収まらないし、大丈夫かなって感じだった。でも、点を取ってくれると、それでいいんだなって改めて思う。

　逆に悠のなかでは、これで自分のキャプテン像…。てか、あいつね、自分の中でキャプテンと半分思っていないんじゃないかな。それがまた、良いと思うんですよね。

　FWとしてゴール取って（チームを）引っ張るという方向に今は針が振れている。それで、チームのことを考え出すと、あいつはキャパオーバーになっちゃう。

　そういうのは、俺とか（谷口）彰悟とか、（チョン・）ソンリョンとかがやればいい。悠はとにかく点を取って進んでいく。それにみんながついていく。そういう良い流れができている。また、あいつも今日で成長すると思う。FWは点を取ってなんぼだから」
 
　また、前述の「キャプテンが先にきていた」（小林）という話を中村に振ると、「それはそうでしょ」と小林の立場を慮って、こう答えた。

「やってないんだもん今まで。（キャプテンは）考えなきゃいけないから。けど、その考えたことも今に繋がっている。最初から点を取れればいいやっていうキャプテンだとついてこない。『いや、お前キャプテンじゃん』ってなるから。

　キャプテンとしても、エースとしても、やんなきゃっていう苦しみを俺らは端で見てた。アイツが自分の仕事はこれだと見つけるまでに彰悟、（大島）僚太、阿部（浩之）ちゃん、アキ（家長）とかが分配できるようになって、アイツも自分のプレーに集中できるようになった。

　このままやってくれればいい。だから、アイツが（得点を）決めなくても、チームとして進んでいる。俺もそのために後ろにいる。そういう風にみんなで同じ方向に向ければいい」

　中村はチームメイトの支えが、現在の“キャプテン・小林悠”を生み出していると言う。さらに、前任者としてのサポートも欠かしていないと話を続ける。
 
「相談というか、よくバスとか新幹線で隣にいて帰る時に話はする。自分のキャプテン像を押し付けてもしょうがないし、悠は悠。俺は俺。だから俺は悠のやっている後ろから、ちょっと軌道修正できればいい。

　それは今までの自分の立ち位置では実現しなかったこと。今までは自分が先頭を走っていたから。そういう意味では上手くフォローできているかな。だから、好き勝手やってくれっていう感じです」

　今シーズンからキャプテンに就任し、苦悩しながらもチームメイトの支えがあって、“FW”として成長した小林。逞しさを増したストライカーが、シーズン終盤の川崎を牽引することは間違いない。
 
取材・文：志水麗鑑（サッカーダイジェスト編集部）