【黄金世代・復刻版】1999 U-20日本代表メモリアル「最強の名のもとに」後編

カテゴリ:日本代表

川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

2017年04月26日

トルシエとの出会いがもたらした化学変化。

清雲監督に代わってトルシエ監督(青いシャツの人物)が就任。選手の誰もが初体験のアフリカ遠征など、途轍もない刺激と競争をもたらした。写真中央の人物は当時のブルキナファソ皇帝。(C)SOCCER DIGEST

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 準優勝という結末に、稲本は苛立ちを抑えつつ、冷静に現状を把握していた。
 
「なにがアカンかったんか。どうすれば結果が付いてくるんか。1人ひとりがよく考えれば分かるはずです。この屈辱をバネにして、ワールドユースでは最高のチームになっていたい。みんな、いろんなコトを勉強したと思いますし」
 
 スタメン落ちした後、奮迅の活躍で定位置を奪い返していた酒井にも、変化が生じていた。
 
「誰かがやればいいとか、なんとかなるとか、どこかで逃げてる部分があったのかもしれない。90分を通して集中することの大事さ、声を掛け合い、チームとして戦うということが大切なんですよね」
 
 さまざまな思いを胸に、彼らは日本への帰途に着く。最強軍団という看板を下ろすも下さないも、自分たち次第なのだという事実を噛みしめながら…。

  間もなくして、清雲監督は辞任を受諾される。代わって、アジア大会などを通して早くもバッシングが強まっていたフィリップ・トルシエ監督が、その座を引き継ぐこととなった。
 
 1999年1月の出来事である。
 
 トルシエにとって、このチームを担当することになったのは、ラッキーだったのかもしれない。理由は3つほどある。
 
 まず第一に、選手らはアジアユースでの苦い経験を経て異常にモチベーションを高めていた。次に、口うるさいほどの練習スタイルをむしろ望んでいた。そして最後に、ユース代表は基本的に非常に明るく、好奇心旺盛な集団であったという点だ。

 ある意味でネガティブに捉えられていたトルシエの特異なキャラクターが、すんなりと受け入れられた。南と永井雄一郎を新たに加えた面々。フランス、ブルキナファソと2週間に渡る長期遠征で、指揮官とチームはものの見事にマッチングしていく。
 
 フランス代表の聖地であるクレールフォンテーヌを訪れ、西アフリカでは、皇帝や大統領にも謁見。首都ワガドゥグから第2の都市ボボデュラッソーまでの約500㌔の道程をバスで行き来し、途中で天然のワニがいるテーマパーク(?)にも立ち寄った。

 トルシエにも物おじせず話しかける播戸は、フランス人をこう評している。
 
「最初はいろんなトコに連れてかれて、『勘弁して~や』って感じやったけど、振り返ると、貴重な体験をいっぱいさせてもらったんかなって思います。あのリラックスタイムがあったから、練習にも集中できた。ちょっと怒りっぽいけど、適当に返事しとけばどうってことない(笑)。コミュニケーションをむっちゃ大事にするから、ボクらも言いたいことを言える。そういう意味では、ユース代表と相性がエエんかもしれません」
 
 さほど難解ではないが、彼らは斬新な「トルシエ3-5-2」をスムーズに実践した。厳格なまでの規律を得て、ただひたすらチーム力向上に邁進していったのだ。トルシエはキッチリと主力組とサブ組のラインを引き、2、3選手を随時入れ替えて競争意識をあおった。
 
 酒井の右サイドハーフ起用や本山のFWコンバートなど、ポジションの配置も奇抜だった。以前ならブツブツと文句を言ってふさぎ込んでいたところだろうが、
 
「どうしてボクをそこで使いたいのか。『守備を買っている』という説明があるし、どこからどこまではボクの判断でやっていいという基準もちゃんとある」(酒井)
 
 など、支障はない。育成とメンタルの両面で鍛え上げたいトルシエに、しかと付いていった選手たち。なにもかもが、充実しきりのキャンプだったと言える。金古と市川のワールドユース出場が絶望的となった以降も、
 
「大丈夫。ボクたちは自信を持ってプレーできています」(小野)
 
 と意に介していない。彼らは確実に、タフになっていた。
 
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