前半が終わってみれば、立ち上がりに漂っていた市立船橋の一方的な展開のイメージは消し飛び、やや攻めあぐねる市立船橋とカウンターから岩崎が一撃を狙う京都橘の好勝負となっていた。
 
　この試合の一つの見どころは、市立船橋の最終ラインを司る原、杉岡大暉のプロ内定コンビと、同じくプロ入り（京都に入団内定）を決めている岩崎の対決だった。岩崎は、得意の抜け出しを仕掛けずに中盤に下りることで相手のマークを混乱させ、杉岡は「ゼロトップみたいになって、自分たちの前にスペースが生まれてしまってやりにくかった」とその効果を話した。前半は、岩崎がリズムに乗せた京都橘により大きな手応えが残ったと言って良い展開だった。
 
　しかし、夏の王者はいつまでもやらせてはくれなかった。原と杉岡大暉のプロ内定コンビに加わる形で後半に岩崎を封じ込めた市立船橋のDF金子大毅は「想像以上の能力でビックリした。シュートもすごかったけど、奪ったと思った場面でも身体をねじ込んで来た前半は、インターセプトを狙って行ったら岩崎選手と入れ替わってしまい、これ以上やられちゃいけないと思った。後半は、原と杉岡（大暉）と連係してシュートを打たせなかったのが良かった」と警戒を強めたことを明かした。
 
「お互いの特徴を知りながら、どうやって攻略して来るのかという心理戦もあって、楽しみながらやれた」と話した岩崎だったが、後半は押し込まれる展開でゴールが遠くなってしまった。
 
　あと1本打てれば……と思わせる岩崎と、後半の岩崎のシュートをわずか１本に抑えた市立船橋の守備陣。京都橘の米澤監督は「結局、ペナルティエリアの中でシュートを打たせてあげられていない。もっと良い形で打たせることができれば……」とチャンスを作らせてもらえなかった後半を振り返った。
 
　１年次から主力として起用されていた岩崎は、持ち前のスピードにパワーと瞬間的な修正力の高いドリブルを身につけ、U-19日本代表となり、プロ入りの夢を叶えた。しかし、それでもなお選手権のゴールは遠かった。
 
「なんで、なんですかね。３回、選手権に出て無得点に終わった。それをこれからの課題としてやっていきたいと思います」と話した岩崎は、ノーゴールの記録と戦慄を残して会場を後にした。
 
文：平野貴也（フリーライター）