買収劇を利用し、回収した自分のカネでもう一度ミランを買う?
しかし、これはあくまで、マスコミが伝えている表向きの話。その背後では、この買収劇をめぐって、もっときな臭い噂や憶測が飛び交っている。
ミラノ・サッカー界の裏事情に詳しいベテランのフリージャーナリストが、ダービーの記者席で聞かせてくれたこんな話もそのひとつだ。
――◇――◇――
買収が成立するかどうかは、まだまだ分からないよ。
問題は、そのカネの出所だ。マスコミは書こうとしないけれど、あれはベルルスコーニが世界各地のオフショアに溜め込んでいた隠し金だと、以前から根強く噂されている。というより、私も含めて皆がそう思っているよ。
ベルルスコーニは、ミラン買収を隠れ蓑にして、裏金を綺麗なカネとして自分の金庫に戻そうとしている、とね。
最初は、あの若いタイ人の投資家「ミスター・ビー」を使い、シンガポール経由でそれをやろうとしたけれど、うまくいかなかった。そこで、わざわざ中国まで行って政府関係者を抱き込んで話をつけ、中国の投資家グループが会社を作って買収するというかたちになったんだ。
腑に落ちないのは、その投資会社の代表者で実質的な新オーナーになるリー・ヨンホンという人物が、中国の経済界ではほとんど知られていない名前だということだ。「ガゼッタ・デッロ・スポルト」のI・Mという記者が、わざわざ中国まで取材に行って書いた話なのだから間違いない。
インテルを買収した「蘇寧グループ」を知らない中国人はひとりもいないだろう。ところが、その中国でインテル以上に人気があるというミランを買収しようとしている人物が、地元の財界ですら無名だというのはおかしな話だ。
その記事が巻き起こした反響が不都合だったのか、I・Mはその後、ミランの買収話について書かせてもらえなくなってしまった。
蘇寧グループがインテルを買収した時には、こういう手続き上の問題は何もなかった。ところがミランは、ミスター・ビーの時も今回も、表に出てくる人物はまったく無名で、しかもそのバックに誰がいるのかは明かされない。カネの出どころも分からない……。
何か裏があるんじゃないか? と勘ぐられるのは当然だろう。
回収した自分のカネで、もう一度ミランを買う――。ベルルスコーニなら、そのくらいのことはやりかねない。
――◇――◇――
筆者は、事の真偽を判断する材料も能力も持っていないので、あくまでもひとつの「フィクション」としてこの話を受け止め、お伝えすることしかできない。
それにしても、表には出ないところでこうした話が日常的に飛び交っていること自体、非常に興味深いことではある。
事態がここからどう動いていくのか、引き続き注目していきたい。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
かたの・みちお/1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。
ミラノ・サッカー界の裏事情に詳しいベテランのフリージャーナリストが、ダービーの記者席で聞かせてくれたこんな話もそのひとつだ。
――◇――◇――
買収が成立するかどうかは、まだまだ分からないよ。
問題は、そのカネの出所だ。マスコミは書こうとしないけれど、あれはベルルスコーニが世界各地のオフショアに溜め込んでいた隠し金だと、以前から根強く噂されている。というより、私も含めて皆がそう思っているよ。
ベルルスコーニは、ミラン買収を隠れ蓑にして、裏金を綺麗なカネとして自分の金庫に戻そうとしている、とね。
最初は、あの若いタイ人の投資家「ミスター・ビー」を使い、シンガポール経由でそれをやろうとしたけれど、うまくいかなかった。そこで、わざわざ中国まで行って政府関係者を抱き込んで話をつけ、中国の投資家グループが会社を作って買収するというかたちになったんだ。
腑に落ちないのは、その投資会社の代表者で実質的な新オーナーになるリー・ヨンホンという人物が、中国の経済界ではほとんど知られていない名前だということだ。「ガゼッタ・デッロ・スポルト」のI・Mという記者が、わざわざ中国まで取材に行って書いた話なのだから間違いない。
インテルを買収した「蘇寧グループ」を知らない中国人はひとりもいないだろう。ところが、その中国でインテル以上に人気があるというミランを買収しようとしている人物が、地元の財界ですら無名だというのはおかしな話だ。
その記事が巻き起こした反響が不都合だったのか、I・Mはその後、ミランの買収話について書かせてもらえなくなってしまった。
蘇寧グループがインテルを買収した時には、こういう手続き上の問題は何もなかった。ところがミランは、ミスター・ビーの時も今回も、表に出てくる人物はまったく無名で、しかもそのバックに誰がいるのかは明かされない。カネの出どころも分からない……。
何か裏があるんじゃないか? と勘ぐられるのは当然だろう。
回収した自分のカネで、もう一度ミランを買う――。ベルルスコーニなら、そのくらいのことはやりかねない。
――◇――◇――
筆者は、事の真偽を判断する材料も能力も持っていないので、あくまでもひとつの「フィクション」としてこの話を受け止め、お伝えすることしかできない。
それにしても、表には出ないところでこうした話が日常的に飛び交っていること自体、非常に興味深いことではある。
事態がここからどう動いていくのか、引き続き注目していきたい。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
かたの・みちお/1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。