いずれにせよ、バルサスタイルへの適応が必要ないこと、ワールドクラスのFWにしてはリーズナブルな契約解除金の設定といった点を踏まえて、ニコの獲得に賛同していた。最初の交渉で、タインタは昨年の提示額の引き上げを要求し、バルサはその条件を飲んだ。

「ニコもほかの選手も、現在はここに来る意欲がある」とスペイン紙『ラ・バングアルディア』とのインタビューに応じたデコは明言した。バルサの選手たちの間で「ニコの移籍は決定事項だ」というフレーズが連呼され始めたのもこの頃だ。

　しかし、その後、契約解除条項が発動されないまま時間だけが過ぎていった。バルサ側は「資金は十分にある」と懸念払拭に努めたが、クラブの財務状況がラ・リーガで再び議論の的となっていた。そんな中、タインタはデコに「アスレティックが契約解除条項の金額を分割で支払うことを受け入れる可能性がある」と説明した。これはスポーツ部門の関係者による情報で、「ニコの移籍を容認する」というアスレティックとの口約束が根拠となっていたが、しかしその選択肢は存在しなかった。

　ニコを放出する考えさえなかったアスレティックにとって、その移籍先がバルサになることはあり得ない話だった。バルサ陣営は「ニコがアスレティックのプレシーズンに合流しないことが我々の目標だ」と楽観的な姿勢を崩さなかったが、何かが狂い始めていた。

　当初からラポルタの熱意とデコの疑念は明白なコントラストを描いていた。「本当にバルサに来たいというなら、代理人にその意思をはっきり伝えればいい」とスポーツ部門から苛立ちの声が上がった。一方、ニコの周辺では相変わらず沈黙が支配していた。
 

　そんな中、デコはタインタから新たな条件を突きつけられた。それはバルサが選手登録できない場合は、フリーでの放出を認めること、手数料を一括で支払うことの２点だった。バルサはそのいずれの要求も拒否した。１つ目はダニ・オルモの登録問題で痛い目に遭ったのと同じ条件であり、２つ目を飲めば、FFP規則の遵守のハードルをさらに上げることに繋がるからだ。

　したがってバルサ陣営は、ニコが契約延長を発表した前日の段階で、雲行きが怪しくなっていることを感じ取っていた。「ニコは家族とクラブから大きな圧力を受けている。代理人はクラブの内部に深く入り込んでいる。現在彼が代理人業務を手掛ける８人の選手が在籍している」と前出のスポーツ部門の関係者は言及する。

　バルサは昨夏に続き、ニコ獲りに失敗した。加入を心待ちにしていたラミネをはじめとする選手たちとファンの失望は大きいが、デコは特に心配していない。再びルイス・ディアスの獲得に本腰を入れる方針だ。

文●ホン・リバス＆ファン・I・イリゴジェン（エル・パイス紙アスレティック・ビルバオ番＆バルセロナ番）

翻訳●下村正幸

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