サッカーでスピードといえば、「プレーのスピード」「考えるスピード」「走るスピード」があって、前のふたつが大事だとよくいわれるが、単純な足の速さも大きな武器になることは言うまでもない。際立った身体能力は、何にも代えがたい強みになるのだ。
 
　過去を振り返れば、ディナモ・キエフやソ連代表で活躍し、75年にバロンドールを受賞したオレグ・ブロヒンは、国を代表するアスリートだった母親譲りの快足をプレーのベースとしていた。
 
　74年W杯で得点王になったポーランドのグジェゴシュ・ラトー、77年にデンマーク人として初めてバロンドールを受賞したアラン・シモンセン、アルゼンチンの金髪ドリブラー、クラウディオ・カニージャなど、足の速さが身を助けた例は枚挙にいとまがない。
 
　サッカー選手のアスリート化が進むと、ポジションによってはある程度の走行スピードが選手に要求されるようになったが、そのなかでもずば抜けた快足ぶりを見せる選手は多々出現している。
 
　ブラジルの“怪物”ロナウドは技術も超一級品だが、DFを置き去りする早業は、そのスプリント能力がなければ実現しなかった。ミラン時代にハーフウェーライン付近からドリブルで突き進んでゴールを決めたジョージ・ウェアもしかりである。
 
　身体能力ということでは、やはりアフリカにルーツを持つ選手は強い。ナイジェリアのティジャニ・ババンギダ、オバフェミ・マルティンスなど、その際立った快足ぶりは、いまだにファンの記憶に強烈なインパクトを残している。
 
　日本でも、鴇田正憲、木村現、杉山隆一、松本育夫、奥寺康彦、永井良和、平川弘、浅岡朝泰など、足の速さをプレーに活かした選手は多い。そして日本で快足といえば、岡野雅行を最初に思い浮かべる人は、今でも多いだろう。
 
　現在でも、アーセナルのセオ・ウォルコットやエクトル・ベジェリンなど、足の速さが話題に挙がる選手は多々いる（全てをここで挙げるのは不可能だ）。ちなみにあるメディアの調べでは、一番の快足はマンチェスター・ユナイテッドのアントニオ・バレンシアだという。
 
　ドリブルスピードが世界一といわれるレアル・マドリーのガレス・ベイルは、２シーズン前の国王杯決勝（バルセロナ戦）でマーカーのマルク・バルトラをスプリント勝負で凌駕。単純な足の速さでも、トップクラスにあることを印象付けた。
 
　足が速くなければ一流選手になれないわけではないが、速ければ間違いなく武器になる。その能力をここ一番の瞬間で発揮した時、観る者は驚愕し、感動を覚える。それもまた、間違いなくサッカーという競技のエンターテイメントのひとつである。