どんな状況でも準備を怠らず、巡ってきたチャンスをモノにする。
ここまで堅守速攻で地道に勝点を稼いでいたハンブルグだったが、最近の試合では限界を露呈。カウンター以外に有効な攻撃の手段がなく、攻め急いではボールを失うというシーンが頻発していた。例えば、敵にサイドの守りを固められている場面でも、半ば強引にこじ開けようとする。
その悪癖が改善されたのが、酒井が後半戦で初めて先発したケルン戦だった。光っていたのは、彼の判断力だ。
「僕は縦に行けなくなったら、わざとスピードを落としてボランチに当てるようにしています。あとはパスの強弱とかで、『今は落ち着くんだよ』というのを味方に伝えるように心掛けています」
縦一辺倒ではなく、シンプルな横パスで攻撃のリズムと相手DFの目先を変える。そうしたギアチェンジを可能にするクレバーさは、酒井の長所と言えるだろう。
ケルン戦でハンブルクが決めたゴールは、そのギアチェンジがもたらした一発だった。1点ビハインドで迎えた47分、ハーフェーライン付近でボールを持ったMFゴイコ・カチャルが酒井とのワンツーでマーカーをかわし、そこから素早いパス交換でゴール前に迫り、最後はニコライ・ミュラーが左足で豪快なシュートを突き刺した。この得点シーンを、酒井はこう振り返っている。
「まさにイメージ通りだったと思います。あれを90分ずっとやるんじゃなくて、試合の流れを見ながら、タイミングよく繰り出す感じ。簡単なプレーじゃないけど、相手からすれば守りづらいと思う」
連敗中だったチームはこのゴールで1-1の引き分けに持ち込み、“何か”を取り戻したようだ。続く21節の強豪ボルシアMGとの一戦では、先制を許しながら3-2で逆転勝ち。2016年の初勝利を本拠地フォルクスパルクに詰めかけたサポーターと一緒に喜んだ。酒井自身も試合を重ねるごとに調子を挙げ、22節のフランクフルト戦ではタイミングの良いオーバーラップから精度の高いクロスを供給していた。
それにしても、酒井は巡ってきたチャンスを逃さない。シュツットガルト時代も味方の怪我や出場停止で出番が回ってくると、必ずと言っていいほど好パフォーマンスで監督の期待に応えてみせた。
おそらくその秘訣は、どんな状況でも準備を怠らないセルフマネジメント能力の高さにある。自己管理すらできない者が、突然訪れたチャンスをモノにできるわけがない。
「試合に出ようが出まいが、常に準備しておくのは僕のモットーですから。しんどいながらも『いつか報われる』って信じてやってきたことが、試合に出たときに活きる。ひとつの自分のプロセスかなって思いますね」
そう語る酒井にも、課題はある。安定感に欠け、レベルの高いプレーを見せていたかと思えば、疲労が蓄積すると初歩的なミスをしてしまうのだ。この欠点を克服すれば、レギュラーの座は安泰になるだろう。
文:中野吉之伴
【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。
その悪癖が改善されたのが、酒井が後半戦で初めて先発したケルン戦だった。光っていたのは、彼の判断力だ。
「僕は縦に行けなくなったら、わざとスピードを落としてボランチに当てるようにしています。あとはパスの強弱とかで、『今は落ち着くんだよ』というのを味方に伝えるように心掛けています」
縦一辺倒ではなく、シンプルな横パスで攻撃のリズムと相手DFの目先を変える。そうしたギアチェンジを可能にするクレバーさは、酒井の長所と言えるだろう。
ケルン戦でハンブルクが決めたゴールは、そのギアチェンジがもたらした一発だった。1点ビハインドで迎えた47分、ハーフェーライン付近でボールを持ったMFゴイコ・カチャルが酒井とのワンツーでマーカーをかわし、そこから素早いパス交換でゴール前に迫り、最後はニコライ・ミュラーが左足で豪快なシュートを突き刺した。この得点シーンを、酒井はこう振り返っている。
「まさにイメージ通りだったと思います。あれを90分ずっとやるんじゃなくて、試合の流れを見ながら、タイミングよく繰り出す感じ。簡単なプレーじゃないけど、相手からすれば守りづらいと思う」
連敗中だったチームはこのゴールで1-1の引き分けに持ち込み、“何か”を取り戻したようだ。続く21節の強豪ボルシアMGとの一戦では、先制を許しながら3-2で逆転勝ち。2016年の初勝利を本拠地フォルクスパルクに詰めかけたサポーターと一緒に喜んだ。酒井自身も試合を重ねるごとに調子を挙げ、22節のフランクフルト戦ではタイミングの良いオーバーラップから精度の高いクロスを供給していた。
それにしても、酒井は巡ってきたチャンスを逃さない。シュツットガルト時代も味方の怪我や出場停止で出番が回ってくると、必ずと言っていいほど好パフォーマンスで監督の期待に応えてみせた。
おそらくその秘訣は、どんな状況でも準備を怠らないセルフマネジメント能力の高さにある。自己管理すらできない者が、突然訪れたチャンスをモノにできるわけがない。
「試合に出ようが出まいが、常に準備しておくのは僕のモットーですから。しんどいながらも『いつか報われる』って信じてやってきたことが、試合に出たときに活きる。ひとつの自分のプロセスかなって思いますね」
そう語る酒井にも、課題はある。安定感に欠け、レベルの高いプレーを見せていたかと思えば、疲労が蓄積すると初歩的なミスをしてしまうのだ。この欠点を克服すれば、レギュラーの座は安泰になるだろう。
文:中野吉之伴
【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。