知将スパレッティから課せられた役割とは?
エル・シャーラウィ自身にとっては、6月のEURO2016に向けてのイタリア代表復帰が当面の大きな目標。2シーズンに渡って故障に悩まされてきた「錆び落とし」のためにも、コンスタントな出場機会を得るのが第一条件だった。
18年までの保有権を持つがゆえに戦力としての商品価値を高めたいミランにとっても思惑は同じだったが、左ウイングにはジャコモ・ボナベントゥーラがキープレーヤーとしてほぼ不動の地位を築いており、エル・シャーラウィが戻ってきても置きどころがない。
そうした状況の中で興味を示してきたのが、年明け早々にリュディ・ガルシア監督を解任し、後任にルチアーノ・スパレッティが6年半ぶりに復帰したローマだった。
ガルシアの子飼いだったジェルビーニョが中国への移籍を強く望んだため、攻撃に縦のスピードを与えると同時にフィニッシュにも絡めるウイングを探していたローマにとって、エル・シャーラウィはうってつけの存在だったのだ。
00年代後半にローマを率いた時、フランチェスコ・トッティをCFに起用した4-2-3-1の「ゼロトップ」システムを開発し、その後の「ファルソ・ヌエベ(偽の9番)」流行に先鞭をつけたスパレッティは、今回もローマに斬新な戦術的アイデアを持ち込んでいる。
状況に応じて3バックと4バックを柔軟に往き来する最終ラインは、ダニエレ・デ・ロッシをセンターバックに起用してフォアリベロ的な役割を持たせた。さらに、ガルシア監督時代はトップ下的なインサイドハーフとして高い位置でプレーしていたミラレム・ピャニッチを、セントラルMFに一列下げて司令塔として機能させている。
そして左サイド高めの位置をホームポジションとするエル・シャーラウィには、攻撃では「偽の9番」のディエゴ・ペロッティと頻繁にポジションを入れ替えて中央に入り込みフィニッシュに絡むかと思えば、守備では状況に応じて自陣深くまで戻り最終ラインにも加わるという、きわめてマルチタスキングな仕事が要求されている。
スピードと持久力を兼備するという稀な長所を活かして、ミラン時代にも60-70メートルを何度も往復する献身的な守備参加を見せ、しかもそれをゴールを奪う役割と両立させていたエル・シャーラウィにとって、この仕事は本来の持ち味を引き出すものだ。
自陣でのボール奪取から素早い縦パスをスペースにつないで一気に攻め込むカウンターアタックから、モハメド・サラー、ペロッティとの素早いコンビネーションで最終ラインをこじ開ける遅攻まで、エル・シャーラウィがその強みを発揮する機会は、今後チームのメカニズムが固まるにつれてますます多くなってくるはず。
3年半前の輝きを取り戻す日が、遠からずやって来るのを期待したい。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
片野道郎/1962年生まれ、仙台市出身。95年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させる。『ワールドサッカーダイジェスト』では、現役監督のロベルト・ロッシ氏とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博している。
18年までの保有権を持つがゆえに戦力としての商品価値を高めたいミランにとっても思惑は同じだったが、左ウイングにはジャコモ・ボナベントゥーラがキープレーヤーとしてほぼ不動の地位を築いており、エル・シャーラウィが戻ってきても置きどころがない。
そうした状況の中で興味を示してきたのが、年明け早々にリュディ・ガルシア監督を解任し、後任にルチアーノ・スパレッティが6年半ぶりに復帰したローマだった。
ガルシアの子飼いだったジェルビーニョが中国への移籍を強く望んだため、攻撃に縦のスピードを与えると同時にフィニッシュにも絡めるウイングを探していたローマにとって、エル・シャーラウィはうってつけの存在だったのだ。
00年代後半にローマを率いた時、フランチェスコ・トッティをCFに起用した4-2-3-1の「ゼロトップ」システムを開発し、その後の「ファルソ・ヌエベ(偽の9番)」流行に先鞭をつけたスパレッティは、今回もローマに斬新な戦術的アイデアを持ち込んでいる。
状況に応じて3バックと4バックを柔軟に往き来する最終ラインは、ダニエレ・デ・ロッシをセンターバックに起用してフォアリベロ的な役割を持たせた。さらに、ガルシア監督時代はトップ下的なインサイドハーフとして高い位置でプレーしていたミラレム・ピャニッチを、セントラルMFに一列下げて司令塔として機能させている。
そして左サイド高めの位置をホームポジションとするエル・シャーラウィには、攻撃では「偽の9番」のディエゴ・ペロッティと頻繁にポジションを入れ替えて中央に入り込みフィニッシュに絡むかと思えば、守備では状況に応じて自陣深くまで戻り最終ラインにも加わるという、きわめてマルチタスキングな仕事が要求されている。
スピードと持久力を兼備するという稀な長所を活かして、ミラン時代にも60-70メートルを何度も往復する献身的な守備参加を見せ、しかもそれをゴールを奪う役割と両立させていたエル・シャーラウィにとって、この仕事は本来の持ち味を引き出すものだ。
自陣でのボール奪取から素早い縦パスをスペースにつないで一気に攻め込むカウンターアタックから、モハメド・サラー、ペロッティとの素早いコンビネーションで最終ラインをこじ開ける遅攻まで、エル・シャーラウィがその強みを発揮する機会は、今後チームのメカニズムが固まるにつれてますます多くなってくるはず。
3年半前の輝きを取り戻す日が、遠からずやって来るのを期待したい。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
片野道郎/1962年生まれ、仙台市出身。95年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させる。『ワールドサッカーダイジェスト』では、現役監督のロベルト・ロッシ氏とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博している。