この三笘の立ち位置は、ドイツのビルドアップの起点を鎌田側に固定し、コンパクトなプレスを機能させやすくしたが、もちろんそれだけではない。カウンターの充電を行なう選手として三笘を高い位置に残す副次的効果も大きかった。

　ただし、その代償として、三笘と守田の間にスペースが空きがちになったのは否めない。ドイツはフロリアン・ヴィルツ、キミッヒらがそのスペースに入ってボールを受けることが、攻撃を加速させるアクションになった。

　また、そのときカイ・ハバーツが冨安と伊藤洋輝の中間に立ち、伊藤を中に引き寄せることで、大外のレロイ・サネがフリーになる。前半の19分にドイツが挙げた同点ゴールは、これらのアクションがつながった結果だった。

　右サイドにコンパクトに追い込んでボールを奪う。この日本の狙いが外された場面で、左サイドがフリーになるのは構造上やむを得ない。前半にサネは終始フリーに見えたと思われるが、焦点はそこにボールを出させないか、出させてしまうか、だ。
 

　ある程度リスクを負ったやり方ではあるが、カタールW杯のように４－４－２で均等に構えても振り回されるだけなので、こうしたアシンメトリーな守備のほうが追い込む指針があり、コンパクトさを出しやすいこともある。リスクとリターン、収支で言えば、日本の利益のほうが大きかったのではないか。

　またハーフタイムを経て、サッと５バックに変えた采配も良かった。２－１でリードしたため、リスクを追わない戦い方に移行したこともポイントだが、もう一つ。上記の偏りが強い守備ブロックに対策を打たれると、矢継ぎ早に攻略される恐れがあった。

　その意味で前半に機能した戦術を思い切って捨て、後半開始からシステムを５バックに切り替えたのは、森保監督らしからぬ、“リード時の”先手アクションだった。これが第二次の姿か。仮にハーフタイムにハンジ・フリック監督が仕込んだ日本崩しがあったとしても、水泡に帰したのではないか。絶妙。

　カタールW杯・ドイツ戦前半の反省と、さらに今年３月や６月の親善試合で上積みしたことの導入。日本は素晴らしい試合をした。日本が強豪国から招待を受け、逆に４－１で叩きのめすなど、ちょっと記憶にない事態だ。正しい喜び方が分からない。

取材・文●清水英斗（サッカーライター）

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