例えば、中島。彼は攻撃の起点となるだけでなく、豊富な運動量を活かして守備も献身的にこなすなど、頼りになる選手だ。今予選では最も安定した力を発揮していると思う。
 
　ただ、すべてのプレーに100パーセントの力を注いでいる印象で、“力を抜く”というか、もう少し緩急や強弱をつけてもいいのかもしれない。
 
　仕掛けるリズムが単調だと、時間が経つにつれて相手も慣れてきて対応されやすくなる。加えて、プレースピードの速さは持ち味のひとつかもしれないけど、場合によっては後ろからのフォローが間に合わず、連動した崩しにつながらないこともある。
 
　それでも局面を打開できる能力の高さがあるからチャンスを作れてはいるけど、相手のレベルが上がり、個で突破するのが難しくなった時の次善策は今後のポイントになる。責任感の強さが裏目に出て、単独で切り込んで自滅するような事態だけは避けたい。
 
　３試合を終えていまだノーゴールの南野も、また違う意味で“孤立”してしまっているように見える。
 
　もちろん、悪い意味ではない。彼がマイボールにすると、チームメイトの反応が鈍いのは、南野が高いキープ力と突破力を備えるだけに、「サポートに行かなくてもOK」と判断しているからだろう。
 
　むしろ南野のような選手ほど、味方のサポートがあれば、それを利用して違いを生み出すものだ。彼がボールを足もとに収めた時、近くにいる選手たちがパスコースを作る動きや、スペースを空ける動きをすれば、南野は状況に応じて最適な判断を下し、決定機を演出するはず。
 
　つまり、豊かな創造性とそれを体現するテクニックを持つ彼に多くの選択肢を与えるシチュエーションを増やすこと。井手口へのアシストはその好例だと思う。
 
　ここまでは理想的な流れで勝ち進むことができている。だからこそ、チームとしても個人としても、細部を詰めていく作業を怠らず、一つひとつのプレーにこだわり、その質を高めていってほしい。
 
　３試合で計７得点を挙げているけど、厳しい言い方をすれば、数字が示すほどの圧倒的な強さは感じられない。文句をつけるつもりはないけど、まだ個の力に頼っている傾向が強く、チームとしてどんな意図や狙いを持って攻撃を組み立てようとしているのか、ゴールを奪おうとしているのかが、なかなか見えてこないのが正直なところだ。
 
　予選突破が最重要課題であるのは理解している。ただし、このチームの最終的な目標は、本大会でメダルを獲ることだ。世界の舞台で、個の勝負ではまだまだ日本人は分が悪い。そこを止められた時、いかにチームとして組織的に敵を攻略できるかが鍵を握る。
 
　スリリングなアジアの戦いに身を投じながらも、先を見据え、より高い意識でプレーしてリオ行きの切符を掴めれば、それこそ理想的だ。