引退を決意した澤穂希の光と影。彼女だからこそ背負った苦しみと味わえた喜びとは?

カテゴリ:日本代表

早草紀子

2015年12月18日

ロンドン五輪後は常に実力の“証明”が必要に。自身のプレーに自問自答を繰り返した。

2015年のカナダ・女子ワールドカップではベンチスタートが多かったものの、献身的にチームメイトをサポート。出場すればピッチ上でも大きな影響力を発揮した。(C) Getty Images

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 そんな澤の立ち位置が大きく揺らぎ始めたのはロンドン五輪以降のチーム作りに入る頃のことだ。世代交代が囁かれる流れに、出場機会だけでなくメンバー招集ですら若手に優先権があった。チームとしてさらなる高みを目指せると信じていただけに、その内なる葛藤は我々が想像するよりも大きく、険しいものだったに違いない。
 
 どれだけ劣勢な状況にあっても、彼女は“これまで以上の澤穂希”であることを示し続けなければならなかった。失敗を恐れずにチャレンジだけが許される若手に比べて、大ベテランがなでしこジャパンに留まるためには“挑戦”ではなく、“証明”が必要とされるのだ。納得できない途中交代に「私のプレーはマズかったのか」と自問自答を繰り返していた彼女の姿が今も忘れられない。
 
 すべてを受け入れた澤が最後になでしこジャパンとして戦ったカナダ・女子ワールドカップは、全7戦で先発出場は2試合。たるんだ気配を察知すれば、手加減なしのプレーで喝を入れていく。ピッチ中央でなくとも、たとえベンチからでもチームを支える覚悟を決めた。
 
 それでも、ピッチ上での彼女のプレーは雄弁であり、絶大な影響力を発揮した。たとえわずかな時間であっても最後まで澤らしいプレーを貫き通した大会だった。
 
 澤穂希であったからこその喜びがあった陰で、彼女だからこそ背負わなければならない苦しみもあった。そのすべてをひっくるめて「悔いのないやりきった最高のサッカー人生」だったと彼女は清々しく微笑んだ。
 
 現役最後の舞台となる皇后杯で彼女の雄姿を見ることができるのは最大で残り3試合。有言実行で走り続けてきた澤穂希。その生き様を胸に刻み、万感の想いを込めた拍手で送りたいと思う。
 
文:早草紀子
 
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