現在、約160人の企業内研究者を抱えるスターリザードは、世界中の選手のプレーデータはもちろん、クラブのトレーニング内容や負傷者情報、天候、ピッチコンディション、アウェーチームの移動距離、観客数による勝敗の影響度まで、ありとあらゆるデータを収集している。そして、独自のアルゴリズムを使った分析によって勝敗や得点、失点などが発生する確率を弾き出し、それを世界中（とりわけアジア）のブックメーカーのオッズと比較。最も儲けが出る確率が高いところにベットし、巨額の利益を上げていると言われている。
 
　興味深いのは、同社が運用しているマネープールに出資しているシンジケート（投資家グループ）の中で、最も出資額が大きいのはほかでもないブルーム自身だということ。つまりスターリザードは実質的に、ブルームの頭脳としての役割を果たしていることになる。そこにパートナーとして大口顧客が相乗りして（参加するには最低でも数百万ポンドの出資が必要と言われている）シンジケートが形成されているのである。
　
　ブライトンのスカウティング部門が活用しているのも、このスターリザードのデータである。ゴール数やシュート数、パス成功率、スプリント数といった一般的なプレーデータにオリジナルの統計データを加味し、独自の知見を盛り込んだアルゴリズムによって、世界中のプレーヤーの中からチェックすべきタレントを発掘（フィルタリング）し、その選手のプレーデータを継続的にモニター（モニタリング）し、補強の必要が生じた時には候補者をリストアップする（リスティング）。
 

　こうした「データスカウティング」の手法がとくに有効なのは、大量のサンプルの中から興味深い選手を探し、絞り込むフィルタリングのプロセス。スカウトが実際に試合をチェックする「ビデオスカウティング」に比べて、はるかに少ない時間でより多くのプレーヤーを、しかも最適化されたアルゴリズムによって発掘できるのだ。
　
　そしてその際に最も優先順位の高いターゲットとなるのが、本来のポテンシャルよりも低く評価され、将来的に大きな成長と活躍が期待できるタレント。ほんの数試合活躍しただけで大きな注目を浴びやすい５大リーグや欧州中堅国のリーグより、北欧、東欧、アジア、中南米のリーグに注意が払われるのも、移籍金の「割安感」に加えて、獲得時の競争が少ないというメリットがあるからだ。カイセドや三笘のように、移籍市場で決して注目度が高くなかった無名のタレントを発掘できたのも、この独自のアルゴリズムによる「データスカウティング」の賜物だ。

　ブライトンが興味深いのは、これだけ充実したデータ分析メソッドを持ちながらも、それに過度に頼ることなく、スカウトが「人力」で分析・評価を行なう「ビデオスカウティング」、そして「ライブスカウティング」にも同じくらい力を入れ、革新的な試みを機能させているところだ。
 
　それが前述したポジション別のスカウティング組織である。このアプローチは、ポジションによって求められる機能や役割、資質が大きく異なるアメリカンフットボールなどでは以前から用いられていたが、サッカー界では一般的ではなかった。
 
　ブライトンは20年１月にスカウティング部門を再編した際に、シニアスカウトマネジャーというポストを新設。その下にポジション別のスカウティングチームを設置したのだ。この再編は段階的に進められ、現在でもイギリス国内やアイルランドなどには、地域担当スカウトが残っているようだ。