なお、チーム作りの方向性は、青森山田高と同様に、“何でもできるオールラウンドなチーム”になりそうだ。３シーズンに及んだランコ・ポポヴィッチ前体制は、プレー強度の高いカウンタースタイルで力を発揮したものの、ストロングポイントを実践できなかった際の“二の手”、“三の手”には難があった。

　特にボール保持におけるクオリティ不足が、チームの頭打ち感を招いていたことは否めない。その点では立ち位置の優位性を生かし、「相手を食いつかせながらアタッキングエリアまで前進していく形」（町田・奥山政幸）を落とし込める金明輝ヘッドコーチをコーチングスタッフに据えたことは、納得の人選だ。

　戦い方の引き出しの多さが勝利の可能性を高める。そうした教訓は現在、熱戦が展開されているカタール・ワールドカップを見ても、その傾向が強いと黒田新監督は指摘する。

「チームの総合力に乏しかったり、できないことが多いチームは悲しい結末で終えてしまうことを、今回のワールドカップでサッカーファンはイメージできたはず。町田でもサッカー人として、ウイークなポイントを作らないというのは必要なこと。プロ選手が相手でもそんな導き方をしていきたい」
 

　ただし、言うは易く行なうは難し。それでも、新たなチャレンジに挑む“フロンティア”（開拓者）は「自信がある」と言葉に力を込め、こう続けた。

「選手の心に火をつける。どういう言葉が響くのか。僕自身、教鞭を取ってきたなかで、選手たちを導く視点はプロ選手出身の監督よりもアドバンテージがあるのかなと思っています。もちろん、やってやろうという気持ちは強いです」

　28年にも及ぶ高体連での監督業で輩出したプロ選手は62名。高校サッカー界屈指の名将が悲願のプロ監督として歩み始める新人指揮官の動向から、目が離せない。

取材・文●郡司 聡（フリーライター）

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