ケイタリングコーナーでコーヒーと小さなケーキを取ってテーブルに戻り、今度はドルトムントからきていた初老の記者と話をした。記者歴は30年というベテランだ。
「よく知っているだろう。あのシンジ・カガワ(香川真司)がプレーしていたクラブだよ。彼はまだプレーしているのか。そうか、ベルギーでプレーしているのか。本当に素晴らしい選手だった。いまでもあのシーズンのことはよく思い出すよ」
ドルトムントが最後にリーグ優勝した時のメンバーだ。ドルトムントファン、記者、関係者にとっての特別感は半端ない。彼の話も尽きない。
「ドイツ代表のメンバーはとてもバランスがいいね。各ポジションに優れた選手を招集できて、ベテラン、中堅、若手のバランスもいい。これまで問題視されていたセンターフォワードのポジションにも期待できる候補選手が入った。ハンジ(フリック監督)はいい決断を下したと思う」
「カガワは素晴らしい選手だった」
ドイツ代表のW杯メンバーについて満足げに語った後、今度は自分の一押し日本人選手について語りだした。
「日本人選手はブンデスリーガで多くプレーしているよな。いい選手が多いよ。フランクフルトの彼もいいな。えーっと、年を取ると名前を覚えるのが大変なんだ。うーん、そうカマダ、カマダだ。すぐれた中盤の選手だな。ゲームオーガナイズができて、決定機に絡むことができる」
そういえば、「鎌田はドルトムントの補強リストに入ってるなんてニュースが出てたけど?」とふってみたら、初老の彼はニコッと笑って「どうなるだろうね。移籍話は最後までわからないものだよ」と答えた。
しばらく話した後、W杯を何度も取材している彼がこれまでの大会を振り返りながら、こんなことをつぶやいた。
「国が違って、土地が違えば、人の考え方だって、常識だって違うだろう。サッカーだってそうだ。その違いがサッカーにも表れてくるんだ。ワールドカップとはそうした違いの中で戦う大会なんだよ」
ベテラン記者の言葉は深い。違いに気づき、順応し、対応する。大会会場となる土地への順応や対応も含まれているし、それぞれの試合における順応や対応もそうなのだろう。クラブレベルでの試合とは違う何かがワールドカップにはある。個々の選手のプレーも、チームとしてのプレーもやはり違う。
そうした違いに戸惑うのではなく、新しい発見として受け止めていきたい。選手にとっても、監督・コーチにとっても、スタッフにとっても、関係者にとっても、サッカーファンにとっても、僕ら記者にとっても、ワールドカップは4年に一度の世界の祭典なのだから。
取材・文●中野吉之伴