【アナリスト戦術記】吉田ヴィッセル、好転の兆し。攻守のメカニズム、強みと課題は?

カテゴリ:Jリーグ

杉崎健

2022年08月02日

小田選手と飯野選手、2人の個性は違う

攻撃のメカニズム。サイドでの個に依存しすぎない連係の構築と、裏への取り方を向上させる必要がある。

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 次に、攻撃面を紐解くと、ボールを大事に下から繋ぐスタイルに大きな変化はないが、守備時と違ってシステムは1-4-3-3へと移行する。ボランチの山口選手が相手のボランチの高さやそれより前に出ようとし、アンカーのような形で橋本選手が中央にいることが多かった。それに対してイニエスタ選手が左に落ち、ピックアップすることも多々あった。

 またSBは高い位置を取らず、相手のサイドハーフを食いつかせるように下がって待ち構え、その食いつき具合を見てGKから飛ばすパスをサイドハーフに出すことも多い。これも飯倉選手の足もとの技術と戦術眼を生かす手法の1つだと思うが、前進できるかどうかは外に入れたあとの中央のサポート具合となるケースが多い。

 イニエスタ選手や山口選手であれば容易に行なえるため、サガン鳥栖戦(2-0)からの4試合はスムーズだったが、直近の試合は機能したとは言い難い。個人に依存しては対策されて前進できないため、この立ち位置からどういった変化を加えていくかは注目したい。

 特に直近の試合ではビルドアップ時の個人のミスに対する吉田監督が首をかしげるような仕草も見られたし、実際に柏戦の失点もアンカーを務めた大崎玲央選手から山口選手へのパスをカットされてから。不必要なパス交換や失点をなくさない限り、上位への浮上は難しい。

 個人選手への依存度は、以前から指摘がされているチームではあるが、敵陣攻撃でも見受けられた。世界的な名プレーヤーであるイニエスタ選手の創造性やパスセンスはこれまで神戸の試合をご覧になっていない方でも想像できるはず。実際にも、針の穴を通すようなスルーパスは何度も見られており、それに呼応するように両サイドハーフやCFが裏にスプリントするシーンは多数あった。ただこれも、直近の試合で彼が不在となると、明らかに足りなくなり、柏の最終ラインの裏を取れるシーンは多く作れなかった。

 今後は図のようにサイドでの個に依存しすぎないコンビネーションの構築と裏への取り方をバージョンアップさせる必要があるだろう。良い時は選手間の距離が短く、少ないタッチで相手をいなしながら、時にサイドハーフの縦へのドリブル等で打開ができている。新戦力が多く起用された直近の試合では、こうしたコンビネーションや創造性は乏しかった。それは合流して間もない選手が多かったので致し方ない部分もある。
 
 例えば3試合で右サイドハーフに先発起用された小田裕太郎選手は、足もとで受けてから突破する回数も多かったが、新加入の飯野七聖選手はどちらかと言えば裏に走って受けたいタイプであり、2人の個性は違う。それに伴って、柏戦では飯野選手が裏を取れたにもかかわらず、中に人がいない状況があったり、周りが合わないこともあった。

 これらは、トレーニングと日常のコミュニケーションが活性化されれば構築されていくはずなので、選手間のみならずスタッフとの関係構築がいかにスムーズになされるかどうかだ。

 優勝争いに加わるだろうとの見立てをする有識者が多かったなかで、リーグ戦の3分の2が終わった段階で17位。2010年には自ら2ゴールを奪い、当時の神戸を残留に導いたレジェンドは、今季のチームを指揮官として残留に導けるのか。新生神戸の夏に期待したい。

【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

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