【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十四「環境が選手を育てる」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年09月03日

サッカーで求められるのは臨機応変な判断、行動。

球際の弱さは日本の大きな課題だが、その向上のためには育成年代からのコンタクトプレーの強度を上げるしかない。また、日本人選手は極力コンタクトプレーを避け、早いボール回しで勝負するほうが向いているのも事実だ。写真:サッカーダイジェスト

画像を見る

 選手に影響を及ぼすのは、道徳文化も含めた環境だ。
 
 例えば日本では、接触プレーが好まれない。「相手に怪我をさせてはいけない」という心理的ブレーキがかかってしまう。気遣いというか、他人へ向ける優しさは日常生活では美徳になり得るが、コンタクトスポーツにおいてはネガティブな要素となる。
 
 欧州や南米では、「身体ごとボールをブロックする」という荒っぽいディフェンスが奨励される。特記すべきは、その環境によって攻撃の選手も技術を向上させている事実だろう。
 
 日本では、「怪我をさせたくない」という意識は「才能を守る」に転化し、それは甘えにもつながりかねない。欧州や南米の選手と比べ、日本人選手は(身体的脆弱さから)守らないと壊れてしまう、という考え方もあるのだろう。しかし、海外の選手との対戦では容赦ない荒波に揉まれることになる。日本人を指導する外国人選手は、「日本人のプレーインテンシティの低さ」を指摘する場合が多いが、これは自明の理と言える。
 
 短所とされているプレーには、必ず土壌的な理由があるものだ。
 
 球際が弱い→フィジカル向上が急務という論理は、一面的には正解だが、少々短絡的だ。長い目で見た場合、育成年代からのコンタクトプレーの強度を上げるしかない。球際というのは単純な肉体能力だけが問題ではないからだ。
 
 もっとも、日本がつぶし合いで世界の上位に進めるかというと難しい。
 
 やはり、日本人選手は極力コンタクトプレーを避け、早いボール回しで勝負する、というほうが体格や性格に向いている。リアクションフットボール志向でコンタクトプレーとカウンターの速さに力点を置くよりは、ポゼッションゲームを追求するべきだ。ただ、相手の攻撃を受け止め、虚を突くというリアクションもサッカーの大事な要素。それをおざなりにすれば活路をふさぐことになる。
 
 必要なことは、どちらか極端なやり方に軸を据えるのではないだろう。サッカーで求められるのは臨機応変な判断、行動である。
 
 今後、日本サッカー全体がどんな育成環境を作っていくのか――。それによって、岐路に立たされることになるだろう。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
【関連記事】
「誰かの後継者にはなれない」日本代表・柴崎岳が掲げる理想像とは?
【日本代表】黒子役を意識する山口蛍。それでも失われないゴールへの意欲
【日本代表】怖さを持って、臨機応変に――。長谷部誠は平常心で舵を取る
【日本代表】不動のストライカー岡崎慎司が悲壮な決意。「点を取れなければ自分はいらない存在」
【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十三「監督の力量とは」

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト なでしこJに続け!
    4月10日発売
    U-23日本代表
    パリ五輪最終予選
    展望&ガイド
    熾烈なバトルを総力特集
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト ガンナーズを一大特集!
    5月2日発売
    プレミア制覇なるか!?
    進化の最終フェーズへ
    アーセナル
    最強化計画
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ