しかし、ミハイロビッチがチームに与えたのは、何も“鉄拳”だけではない。彼は就任してすぐ、選手からレストランのボーイに至るまで、ミラネッロで働く全ての人を集めて、皆が共通した意識を持つことの重要さを熱く語った。
 
　また、サマーキャンプの途中には自分のポケットマネーでバスを借り、選手全員を連れて、リゾート地・マッジョーレ湖のレストランでのディナーに招待した。もちろん、食事もミハイロビッチのおごりだ。
 
　先日も練習後にミラネッッロでBBQ大会を催し、選手たちとともにこれを楽しみ、リラックスした。ちょうどコッパ・イタリアでペルージャに勝利した翌日であったため、このイベントはチームに陽気な空気をもたらした。
 
　この試合、対戦相手のペルージャは確かに格下のチームだったが、ミランにはまだまだ多くの伸びしろがあると知ることができた試合だった。とにかく良い素材は揃っているし、良いシーズンを過ごす基盤はできている。ミラニスタはこのミランに期待し、必ず良いシーズンになることを信じている。
 
　その根拠は、何もミハイロビッチだけではない。ここ何年も緊縮財政を敷いていたベルルスコーニが、また新たにチームに投資を始めたことも大きい。今現在までで、すでに補強に8000万ユーロを使っており、移籍市場の閉まる今月末までには、もっと金額が上がると予想される。
 
　レンタルか、移籍金ゼロの選手ばかりを獲得していた１年前までと比べると、あまりに対照的な動きだ。ただ、ここで忘れてはならないのは、これら全てミランの株の48パーセントをビー・テチャウボン氏に売却して得られるであろう５億ユーロを当てにしての動きであるということだ（まだ“ミスター・ビー”から金は届いていない……）。
 
　こうした様々な要因から、今のミランには明るい空気が流れている。１か月の間に２度も「デルビー（ミラノダービー）」で勝利したことも、それをさらに助長しているだろう。
 
　しかし、今は２つのことに注意しなければならない。まずは、開幕戦の過ちを二度と繰り返さないこと。黒星が続けば、かつてのあの嫌な空気はすぐに戻ってきてしまう。
 
　第二に、帰還が決定したマリオ・バロテッリという未知数の存在だ。彼の加入で、ロッカールームの雰囲気はどう変わるか？　チームワークを乱す危険性はあるか？　今はまだ分からない。
 
　そして、サポーターが彼を快く迎えることができるのか？　『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のアンケート結果によると、75パーセントのミラニスタが、バロテッリのミラン復帰に難色を示している。
 
　ゼロから新たなスタートを切った今のミランのようなチームには、何より確実性が必要だ。ここでわざわざ、未知数の賭けをする必要はないと思うのだが……。
 
文：マルコ・パソット（ガゼッタ・デッロ・スポルト）
協力・翻訳：利根川晶子
 
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年２月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から８年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。