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旧知の記者が見たオシム氏の葬儀。弔辞を読んだボバンは「教えを受けたこと誇りに思う」と感謝、ピクシーは悲しみのあまり…【現地発】

カテゴリ:日本代表

ズドラフコ・レイチ

2022年05月18日

「『よく走る者を敬え』という言葉を決して忘れない」(ボバン)

ストイコビッチやボバンらの名手を指導したユーゴスラビア代表監督時代。(C)Getty Images

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 オシムの逝去を嘆くのは、なにもボスニア・ヘルツェゴビナの人たちだけではない。

「シュワーボが亡くなったと聞いた瞬間、彼がこれまでしてくれたことが私の頭に次々と浮かんできた。それはサッカーの世界のだけに留まらない」

 そう語ったのはセルビアのサッカー協会副会長であるネナド・ベコビッチ。彼はオシムのユーゴスラビア代表時代のチームメイトでもあった。

「君は永遠の作品を作った。君はいつも次の時代を生きていた。いつも先を見ていた。そして我々のサッカーをより豊かにしてくれた」

 この追悼式には、かつて彼のユーゴスラビア代表でプレーした4人の背番号10が集まった。ボスニア・ヘルツェゴビナからはメフメド・バダレビッチとサフェト・スシッチ、そしてセルビアのドラガン・ストイコビッチとクロアチアのズボニミール・ボバンだ。

 UEFA会長の名代も兼ねていたボバンは、1年間だけであったがオシムの下でプレーした。

「偉大な選手、偉大な監督である以上に、偉大な人間だった。オシムに教えを受けたことを私は誇りに思う。彼がごく自然な態度で接してくれたので、我々若手もリラックスしてプレーすることができた。親し気に私のことを“ズバンス”と呼んでくれて、それがうれしかったのを覚えている。

 彼は誰よりも先を、誰よりも高みを見ていて、誰よりも賢かった。彼がいつも口にしていた『よく走る者を敬え』という言葉を私は決して忘れない。こうした教えは彼の教え子たちの中に息づいて、今また次世代の選手たちに受け継がれようとしている」

 彼の教え子で現セルビア代表監督のピクシーことストイコビッチも弔辞を述べる予定であったが、あまりの悲しみの大きさに、最後まで言葉も発すことができなかった。
 
 オシムが愛してやまなかった日本からも、日本サッカー協会の反町康治技術委員長がはるばる駆けつけ、彼の日本サッカーへの貢献に感謝の言葉を述べた。イビチャも喜んでいたに違いない。彼はオシムが日本監督時代、その下でコーチを務めていた経験がある。また在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本大使館の伊藤大使も列席された。

 偉大な人物を惜しむ気持ちに国境はない。

 サラエボ市政府は市内の中心部の道、もしくは広場にイビチャ・オシムの名を冠することを発表した。またユーゴスラビア連邦が分裂する前に首都であったベオグラードでも、イビチャ・オシム通りが誕生することが決まったという。

 オシムは目の前の人間がどこで生まれたかを、一切気にはしなかった。彼はいつもその人間そのものを見ていた。だからこそ彼は国境や主義や主張といった垣根を越えて、皆から愛されたのだろう。彼の追悼式はそれを如実に語っていた。

 そしてそれこそが、オシムが最後に私たちに遺してくれたメッセージなのかもしれない。

取材・文●ズドラフコ・レイチ
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
ズドラフコ・レイチ(Zdravko Reic)/1941年クロップ・スピリット生まれ。1959年より『スロボンダ・ダルマチア』紙のスポーツジャーナリストとして活躍。同時に『スポルツケ・ノボスティ』のコラムも執筆。『フランス・フットボール』、英国の『ワールドサッカー』のクロアチア支局員も長きにわたり務める。2005年からはクロアチア国営TVのサッカー番組のメインパーソナリティーに。ボバン、ボクシッチ、スティマッチ、ヤルニ、アサノビッチなど多くの元クロアチア代表選手と交流があり、とりわけ現代表監督のビリッチとは懇意の仲。オシム氏とは1964年来の付き合いだった。
 
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