タンカで運び出されたクロスは病院へと転送され、４月４日にオペを受けた。経過は順調だという。ただ離脱時期がどのくらいなるかはまだわからない。

　クロスはビーレフェルトとともにずっと戦ってきた選手だ。20歳のころは９部のクラブでプレーしていた。その後銀行員としての研修をスタートさせた年に、４部でプレーするヴォルフスブルクのセカンドチームから声がかかる。そして24歳の時にビーレフェルトからオファーを受けて３部リーグへ移籍。それ以来12年間、ビーレフェルト一筋の男だ。３部から２部、そして１部へとクラブの歴史とともに歩んできた。苦しい時も喜ばしい時もいつもそこにはクロスがいたのだ。

　34歳となったクロスは今シーズン限りで引退を表明している。クラブの大功労者にふさわしい別れが準備されていることだろう。どんな時でも勇敢でクラブのために心血注いでくれた選手に、あふれんばかりの拍手と声援で送り出したいと誰もが思っていることだろう。

　それなのに、今回のケガでひょっとしたらクロスがピッチでプレーする姿を見ることなくお別れをしなければならないのだろうかとファンは悲しんでいる。
 

　そんな中、ビーレフェルトは公式ホームページで「サッカーは繋げてくれる」という記事をアップしていた。ストレートなメッセージがそこにはあった。

「その日、サッカーは何ができるのかをまた私たちに示してくれた。

　サシャ・カライジッチは最初の素晴らしい救急救助をしてくれた。

　今日はウクライナから避難してきた子供たちがスタジアムを訪れ、観衆から歓迎されていた。ほんのひと時でも楽しむことができたことを祈るばかりだ。

　シュツットガルトのファンはファビアン・クロスが運ばれる際にビーレフェルトのファンとともに拍手を送ってくれた。

　パトリック・イットリヒ主審をはじめとした審判団は試合後すぐにファビアン・クロスの健康状態を気にかけてくれた。

　サッカーは勝点や結果、ゴール以上の存在なのだ。

　サッカーは情熱で、そして人々を結びつける共通の価値観だ。ファビ(クロスの相性）がまた元気になって、シーズン残りの試合でさらに僕らが繋がり合っていけることを祈ろう」

　本気でプレーしあっていると、時に悲しいことが起きてしまう。それは僕らではどうすることもできないめぐりあわせなのかもしれない。でもそんな時こそ、人の本当の姿が見える瞬間でもあるのだろう。手を取り合って祈り、できることを懸命にする。きっとそれが力に変わると信じて。

　サッカーには、スポーツには、そんな力が必ずあるのだから。

文●中野吉之伴

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