【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十一「指揮官の責任」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年08月13日

もし不利な状況だったとしても、そこでのマネジメントこそ指揮官には問われる。

東アジアカップでハリルホジッチ監督は準備不足を嘆いたが、フィジカルやコンディションも計算に入れるべきだった。それができなかったのは采配の手抜かりで、言い訳と捉えられても仕方ない。 (C)SOCCER DIGEST

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 ただ日本代表では、前任者のアルベルト・ザッケローニが先発メンバーをほぼ固定し、ポゼッション攻撃戦術を確立した。本田、香川、長友佑都の左で崩し、右の岡崎が仕留める攻撃は異彩を放った。2011年のアジアカップ優勝、ブラジル・ワールドカップのアジア予選突破、東アジアカップ優勝などアジアレベルでは成功を収めている。コンフェデレーションズ・カップでもイタリアに善戦した。
 
 ところが、固定したメンバーでは新陳代謝が淀んだ。ザッケローニはその入れ替え作業でしくじり、肝心のワールドカップ本大会で中心選手のエゴを許さざるを得なかった。もっとも、ザッケローニの仕事は高く評価するべきで、彼は「アジア最強」の権威を保ち、日本代表のブランド力を高めた。彼が代表監督を務める間に渡欧した選手も少なくなく、日本サッカーの牽引車であったことは間違いない。
 
 一方、現監督のヴァイッド・ハリルホジッチはワールドカップ2次予選でシンガポールとさえ無得点で引き分け、連覇を狙った東アジアカップは白星なしの最下位で終えている。そこでチーム強化を訴え、Jリーグのクラブと調整して代表合宿を張れるように要請しているという。戦術の浸透には時間が必要、という心情は理解できる。
 
 しかし、合宿が代表強化に直結するとは考えにくい。そもそも代表監督の仕事は、自ら選んだ手札と与えられた条件で状況をくぐり抜けるのか、にある。
 
「2、3日前に来ていれば、すべて勝てた」
 
 大会後にハリルホジッチはそう豪語したが、フィジカルやコンディションを危惧していたのなら、それも計算に入れて開幕の北朝鮮戦から慎重な戦いを選択するべきだった。それができなかったのは采配の手抜かりで、言い訳と捉えられても仕方ない。集団を与る長とはそういうポストで、それは天候や事故の責任も負う船長や機長も同じだろう。ましてやサッカーは相手との競技、勝負に負けたら監督の責任である。
 
 惨敗した東アジアカップは優勝した前回と比べても、そこまでの苦境ではなかった。もし不利な状況だったとしても、そこでのマネジメントこそ指揮官には問われる。ワールドカップのグループリーグでは十分にハンデが想定できるからだ。
 
 9月3日に行なわれるワールドカップ・アジア2次予選、カンボジア戦。ボスニア系フランス人の一挙手一投足が注目される。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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