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連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】世界一激しい南米の「カンチャ」で日本の“球際”に思いを巡らす

カテゴリ:ワールド

熊崎敬

2015年07月16日

球際での意地の張り合いが延々と続く――。

ウルグアイ・サッカーの神髄がカンチャに。 写真:熊崎敬

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 私はこの面白すぎる顛末をブラジル人の移民労働者と見ていたが、その彼が感心した顔つきで呟いた。
「これがウルグアイ人だよ。ボール目がけて容赦なくタックルが飛び出すだろう。肘も出るし、膝も出る。こういう荒々しいプレーはカチンバといって、連中はうんざりするくらい繰り返すんだ」
 つまり私は、名もないカンチャでウルグアイの神髄に触れたわけだ。
 
 カチンバは日本でいうところの「球際」に相当するが、こうした荒々しさは「ガラ・チャルーア」とも呼ばれる。「ウルグアイの爪」とでも訳せばいいだろうか。
 
 コパ・アメリカでも証明されたように、ウルグアイは球際に滅法強い。球際の激しさでは世界一ではないだろうか。
 
 この国が球際に強いのは、球際に生きるしかないからだ。
 
 ウルグアイのエンブレムには4つの星があしらわれている。それは世界タイトルの数を意味する。ワールドカップ制覇は2度だが、ワールドカップ以前の2度の五輪金メダルも、ワールドカップにカウントしているのだ。
 
 ウルグアイの信じがたい勝負強さは、この世界制覇4度というプライドによるところが極めて大きい。
 
 ウルグアイは負けてはいけない。
 
 この「負けてはいけない」というのは、ボリビアやペルーに負けるなということではない。国境を接するブラジル、アルゼンチンに負けるなということだ。人口300万の国としては、ほぼ無茶な望みである。
 
 だがウルグアイがいまでもブラジル、アルゼンチンを脅かし、ときに勝利を収める。それは球際の強さがあるからだ。
 
 人口が少ないウルグアイは、タレントでは絶対に2強に勝てない。スアレスがいても、カバーニがいても、フォルランがいてもタレントでは負けるのだ。これが彼らの考えの前提であり、したがって敵のタレントを抑え、敵のリズムを壊すところから勝負が始まる。
 
 コパ・アメリカのアルゼンチン戦も、0-1で敗れたものの、ウルグアイらしさは存分に発揮された。
 
 球際の激しさによって敵を怖気づかせるのは、ウルグアイ人にとってはたしなみのようなもの。私が観たカンチャは、そんなウルグアイ人同士の対決だったわけで、球際の意地の張り合いが延々と続いたのは当然の成り行きだった。
 
 モンテビデオの煤けた港湾のカンチャで、わたしは日本の球際を思った。日本は球際に強くない。ウルグアイを見ていたら、それこそ月とすっぽんだろう。
 
 どうすれば球際に強くなるか。これはもう特効薬はない。
 
 ウルグアイが球際に強いのは、ブラジル、アルゼンチンと国境を接していることが非常に大きい。
 
 このように国境は、その国のサッカーの質や形に大きな影響を及ぼす。日本が球際に弱く、「自分たちのサッカー」に陥りがちなのは、海によって国土を守られてきたのと無縁ではないと思う。真剣にウルグアイに学んだところで、環境が違うのだから彼らと同じ球際を持つことは不可能に近い。
 
 そんなことを考えていたら、早くも2試合目が始まった。
 
 港湾のカンチャでは相変わらず、壮絶な球際の攻防が繰り広げられている。百年後も、それはきっと変わらないのだろう。
 
取材・文:熊崎敬
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