残念だったのは、コロナ禍の影響で“お金が回るシステム”を作れなかったことです。バブル経済崩壊後の1990年代後半にクラブが消滅、経営悪化という状況となり、「ABC契約」によって選手年俸の上限を設定しました。そのため良い意味でお金が回らなくなり、結果的にゼロ円移籍も頻発。若手を育てても高く売れないジレンマに陥りました。

　それではダメだと、Jリーグは2019年にワールドクラスの選手、指導者の輩出を目指す「Project DNA」を立ち上げました。育成こそ、クラブチームの原点。アカデミーの選手全員がプロになれるわけではありません。育成組織になにより求められるのは、サッカーというスポーツを通して彼らの“人間力”を高めることです。それがひいては、優秀なプロ選手を生む礎になるはずです。

　そのうえで重要なのは、指導者の質。こうしろ、ああしろと、なんでも教えてしまうスタンスだと選手は育ちません。ロボットではないのでね、彼らは。やはり、自分自身で考えさせないと。怖いのは個性のないことです。日本の指導者は真面目な子が好きな傾向があって、そうした環境だと、どの項目も「80点」みたいな平均的な選手ばかりになってしまいます。実際、大久保嘉人選手は「なんかみんな同じような選手ばかり」と言っていましたしね。もっとも、大久保選手のようなタイプはなかなかいないと思いますが、飛び抜けた武器があれば、その長所を最大限に伸ばす指導も大切なのではないでしょうか。

　クラブが養ってもらいたいのは適材適所の概念。指導者向きなのか、フロント業務に適しているのか、クラブカラーを踏まえたうえで、そこを見極めたリクルートをしてほしいです。
 

　いずれにしても、Jリーグはアジアでナンバーワンのリーグになってほしい。アジア圏内から優れた選手、素晴らしい指導者がまずJリーグに来る。それから、イニエスタ選手のようなスターももっと参戦してほしいです。ヨーロッパの主要リーグに近づきたい思いはありますが、真似するだけはダメです。日本には日本の良さがあり、そのひとつは個人的に地域密着だと考えています。Jリーグの原点はどれだけ地元に愛されるクラブになるか、そこを忘れてはいけません。

　さて、来年からJリーグはチェアマンを含め体制が一新されます。村井さんの下で組織改革に着手し、『DAZN』の参入でいろいろ新たなチャレンジもしました。ここまで築いてきたものがゼロにはならないはずです。私の後任が誰であっても、日本のサッカー界をもっと魅力的にしたいという想いは変わらないと思いますから、よりJリーグを発展させてくれれば幸いです。

　最後に──。サッカーの試合での勝敗はプロの世界で極めて重要ですが、そこだけに捉われてほしくはないです。それ以上に着目すべきは、選手やチームに愛情を注げるか。負けてもサポートしたいと思わせる何かがあるか。勝敗よりも大事なものが問われている時代になっているのを感じます。

＜プロフィール＞
原　博実（はら・ひろみ）／1958年10月19日生まれ、栃木県出身。現役時代はFWで早稲田大、三菱重工などで活躍。日本代表歴は75試合・37得点。現役引退後、浦和、FC東京の監督を経て日本サッカー協会で技術委員長なども務めた。16年３月にＪリーグの副理事長に就任し、現在に至る。

取材・構成●白鳥和洋（サッカーダイジェスト編集長）

※本稿は、サッカーダイジェスト12月23日号に掲載された「J’sリーダー理論」の内容を転載したもの。

【画像】セルジオ越後、小野伸二、大久保嘉人、中村憲剛ら28名が厳選した「 J歴代ベスト11」を一挙公開！