その人物とは早い段階から会長選への出馬の意思を表明していたビクトル・フォントだ。彼は自身が当選した暁にはシャビを「バルサのアレックス・ファーガソン」にする構想を持っていた。つまり選手の選考や戦術の策定といった本来の役割に加え、人事権を掌握し、補強方針にまで発言力を持つ全権監督だ。
しかし、ジョアン・ラポルタが出馬を表明し、会長選の潮目が一変した。第一期政権期での実績はやはり強力で、すぐさま本命に浮上。一方、フォントの公約の目玉になるはずだったシャビは戦略の見直しを迫られ、キャンペーン中、陣営に加わっていることを表明することはなかった。
だが、ラポルタは当然、シャビの背後にフォントがいることを知っていた。会長選は下馬評通りラポルタが勝利。この時、シャビはいうなれば“オフサイドトラップ”にかかった状態になった。
シャビを「バルサのファーガソン」にする構想はラポルタの登場で頓挫
シャビはその後、ラポルタとの接近を試みた。そもそものシャビの願いは今シーズン開幕からバルサを率いることだった。一方、ラポルタはロナルド・クーマン監督の手腕にかねてから不満を抱き、水面下で後釜を探していた。
当然シャビも候補に入るはずだが、しかしラポルタはトップレベルでの監督経験がないというもっともらしい理由を並べ立てて、“ラブコール”に応えることはなかった。フォントとの結びつきの強さがシャビの立場を悪くしていたのは明らかだった。
シャビは焦った。なぜならこのタイミングを逃せば、来夏になればラポルタの大本命のジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)、同じくお気に入りのトーマス・トゥヘル(チェルシー監督)ら強力なライバルが立ちはだかる恐れがあるからだ。その時点でシャビが監督になる望みは、なし崩し的にクーマンのシーズン途中の解任という方向に集約されることになった。
そうなれば、選択肢は限られ、バルサからオファーが届いた場合は、契約期間中であっても解除が可能という言質をアル・サッドの首長(オーナー)から得ていた自身が有利になるからだ。