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【川崎】心震わす勝利への覚悟。過密日程、隔離生活…「精神的に滅入った」5連戦を全勝できた背景

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2021年10月03日

FC東京には1-0で競り勝つ

試合後に挨拶する選手たち。入場者数の上限が緩和されスタジアムに集まったサポーターと勝利を喜び合った。(C)SOCCER DIGEST

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[J1第31節]川崎1-0FC東京/10月2日/等々力

 胸が熱くなるような勝利だった。

 韓国で行なわれたACL(ラウンド16の蔚山現代戦。PK戦の末に敗戦)から帰国後、約2週間でリーグ戦5試合を戦った川崎は、その5戦目としてホームで“多摩川クラシコ”となるFC東京戦を迎えた。

 日本に戻ってからは新型コロナウイルスの影響で、いわゆる“バブル”に入る隔離生活を強いられ、神戸戦が行なわれた9月29日を持ってようやくその規制も解けたが、FC東京戦までは中2日。十分な回復をできずに試合に臨んだ選手も多かったはずだ。彼らの姿からは、満身創痍という言葉が浮かび上がってきた。

 現にキャプテンマークを巻いた登里享平も振り返る。

「本当に情けないくらい疲れていました。前半に関しても、全然走れていなかったです」

 この試合だけを見れば、川崎らしいサッカーを表現できたとは言えないだろう。流れるようなパスワークは限られるほどで、シュート数も6本と12本と、FC東京に倍の数を打たれた。それでも前半終了間際に、登里のクロスをレアンドロ・ダミアンがヘッドで合わせた決勝弾を最後までチーム一丸となって守った。

 どこか足が重そうなCBジェジエウは自らに鞭を打つかのようにカバーリングへ走って相手の決定的なシュートをブロック。ゴール前では車屋紳太郎や山村和也らが身体を投げ出してコースに入り、登里や山根視来らも最後の一歩を踏ん張ってボールへ寄せる。

 ストライカーの小林悠も自陣ペナルティエリアに戻ってディフェンスし、気持ちを奮い立たせようと、周囲を叱咤激励する。試合終了のホイッスルとともにピッチに倒れ込んだ旗手怜央らの姿を見れば、誰もが死力を尽くして戦い続けたことが分かる。熱く気持ちのこもったプレーは、それこそ感動を呼ぶものだった。

 ACLから帰国後、鬼木達監督が掲げていたリーグ戦での“勝負の5連戦”。厳しいコンディションで、過酷な連戦を乗り切らなくてはいけない。そこで指揮官は呼びかけた。ここが勝負だ、疲れやコンディションを言い訳にせず、この2週間に全力を注ごう、と。

 直前にはACLだけでなく、ルヴァンカップも敗退し、前人未到の4冠を目指したチームは小さくないダメージを受けていた。それでも指揮官は、リーグ連覇へ、新たな目標を設定させたのだ。

 本来、川崎としては、ボールを握り、相手を圧倒して試合を支配し、3点以上を奪って勝つのが理想だ。そのコンセプトは決してブレていない。ただ、すべての試合で理想を通せるわけでもない。連戦が続き、コンディションが整わなければなおさらだ。だからこそ、この5連戦は柔軟にシステムを変え、しぶとく戦い、2つの試合終了間際の決勝弾を含めた3つの逆転勝利も収めてきた。 

 FC東京戦後、話を訊いた鬼木達監督も感慨深く語る。

「スポーツは気持ちだと思ってずっとやっています。そういうものをすごく感じさせてくれた5連戦だったと思います。バトル、戦うところでそれをしっかり表現してくれました。本当にタフになってくれましたし、成長を感じられる試合が多く、苦しいながらも選手の成長が見れたことは喜ばしいです。良いゲームだったねではなく、最後は勝ち切ること、勝つことに執着し続けたこと、そして結果を残せたことで、選手の力強さを感じています。本当に選手たちは頼もしかったと思います」

 印象的だったのは、この連戦の間、指揮官が覚悟という言葉をよく口にしたことだ。勝利への覚悟――それはFC東京戦でもよく表われていた。改めて鬼木監督も話してくれる。

「普段、経験しないような隔離期間や連戦があったなかで、常に相手を圧倒しようという話をしています。しかし、コンディションなどいろんなところでそれができない時ですね。できなくても勝ち続けるというか、できないから負けたね、ダメだった、ではなく、最後のそういうところのこだわり。そこはそれぞれが覚悟を持ってゲームに入らないとできないことだと思います。最後はチームのために、という思いが全員にあったからこそ、こうした結果を残せたはずです。改めて自分も勉強になった2週間でした」

 
 また、リーダーであり、貴重なムードメーカーである登里の存在もチームにとって大きかったはずだ。そんな登里はこの約2週間の戦いをどう感じていたのか。試合後には、少し考えながら胸の内を明かしてくれた。

「崩れるのは簡単ですし、今回気づいたのは、肉体的な疲労は精神面があれば補えると思っていましたが、立て続けに敗退(ルヴァンカップ、ACL)したことと、隔離も含めて、精神的に滅入ったので、肉体的にもきつかったですね。今までにないぐらい、相当に削られていったなと感じていました。

 そのなかで選手ともよく話して、こういった経験が今後、崩れないで耐えることで、笑って話せるようにというところは前にもあったんですが、そういう笑い話にしていこうという、ハングリ―精神、反骨心、ポジティブな声がすごく出ていたので、崩れないだろうなと思っていました。(直前の大会では)負けましたが、ひっくり返すとか、そういった自信はあったので、この結果につながったと思います。いろんな選手が前向きにいるので、そこは自然と同じ方向に向かっているというか、一体感をチームとして感じているところです」

 そう語った後に、登里は「すみません、上手く言い表わせてないと思うんで、また頭を整理しておきます」と笑いを誘う。それでも想いはよく伝わり、言葉には重みがあった。

 もしかしたら、周囲にはルヴァンカップ、ACLで敗退したことを揶揄する声もあるのかもしれない。それでもクラブ一丸となって戦い抜いたこの5連戦は、誇れる結果である。そしてこの結果は、FC東京戦では入場者数の上限の緩和もあった、サポーターの後押しあってこそでもあるだろう。

 FC東京戦を終え、ようやくスケジュールが空く川崎は、改めてエネルギーを充電し、シーズン終盤へと臨んでいく。元来、持ち合わせる華麗なサッカーに加え、勝ち切る逞しさを増したチームは、ラストスパートへどんな戦いを見せてくれるのか。心を震わせたFC東京戦を越えるさらに熱いゲームにも期待したい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

【J1第31節PHOTO】川崎1-0FC東京|レアンドロ・ダミアンが決勝弾!多摩川クラシコを制してリーグ戦6連勝!
 
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