有力選手とエゴの関係については悩ましい。

　サッカーの世界、トッププレーヤーはほとんどの場合、ある種のエゴを感じさせる。エゴは他と区別した時の自分、あるいは自我を意味する。それはこだわりや負けず嫌いにも言い換えられ、プロフェッショナルの自負心とも言える。プロ選手として生きていくための大事な要素だ。

　その一方、エゴは自分本位に傾いてしまうと、たちまちネガティブな意味に転じる。

「エゴイスト」
　
　その言葉は、しばしば否定的に用いられる。自分勝手というのか。はみ出し者となる。

　しかし、エゴを否定するべきではない。エゴを飼いならせる者のみが、プロの世界では生き残る。エゴを持っていない者は、プロサッカー選手としては善良すぎ、生き馬の目を抜く世界では貧乏くじを引くことになるだろう。

「大会始まって以来、エムバペはエゴを見せている」

　フランス国内ではEURO2020開催中、そんな批判が出た。

「デシャン監督もマネジメントできないほど、自己肥大が問題になりつつある。例えば大したキックもできないのに、FKでは蹴りたそうにボールの側にいる。トップ選手になるためには、まだまだやるべきことがある」
　
　自我が強すぎるという批判か。
　

　しかし、エムバペはピッチの上で活躍したい、という強い欲を見せるが、それに準じたトレーニングに励んでいる。そのサイクルは、“正しいエゴ”と言える。その貪欲さがなくなったら、彼は世界トップにはたどり着けない。

　例えば、かつてリオネル・メッシはFKを積極的に蹴らなかった。ロナウジーニョのようなスペシャルなキッカーがいたのもあるだろう。しかし、彼は世界最高の選手になるため、あらゆる技術を高めてきたが、FKもその一つだった。そして、いつしかFKもスペシャリストになったのだ。

　メッシは、巨大なエゴに突き動かされたのだろう。

「エムバペは相手に恐怖を与える選手だ」
　
　レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督は、エムバペについて端的に言い現わしている。

　その恐怖の中身は、エムバペの「世界を併呑するようなエゴ」から発したものだろう。
自分だけの技術を、ピッチで十全に解き放つことができる。それを心から楽しむことができる。さらに、いくらでも改善できる。どこまで行ってもエムバペはエムバペであって、唯一無二のプレーができる。それは対戦相手にとっては恐怖だ。

　エゴの強い選手は、正念場を楽しめる。クリステチアーノ・ロナウドは最たる選手で、一つのナルシズムだろう。ひりひりした感覚にエクスタシーを覚えるのだ。
　
エムバペも、そのエゴを味方にできるか。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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