昨年で週刊誌としての役割を終え、新たな時代に突入したサッカー専門誌「サッカーダイジェスト」。実に21年にもおよんだ媒体の歩みは、日本サッカーの急成長と世界のサッカー界の大変動とともにあった。
 
　そこで新たなシリーズとして今回より、21年間のなかで、その時々に起こった当時のサッカー界を象徴する出来事や、忘れていた懐かしいあのニュースを、通算で刊行数1000冊以上を数えた“週刊SD”の誌面とテキストとともに振り返っていく。
 
　Jリーグフィーバーから日本サッカー最大の悲劇、28年ぶりの悲願達成、W杯共催、2002年の熱き１か月間、日本人選手の海外進出、W杯での悲喜こもごもetc.……懐かしい、あるいはまだ記憶に新しい事象の数々を、ここで思い出していただこう。
 
　第４回は1994年２月２日号。Jリーグの初代年間王者を決するチャンピオンシップは、運命の第２戦を迎えた。サントリーシリーズ王者・鹿島アントラーズとニコスシリーズ王者・ヴェルディ川崎の対決は、第１戦は２-０で後者が先勝を飾っていた。
 
　ジーコに率いられたアントラーズはこのビハインドを挽回せねばならず、極めて苦しいなかで迎えた第２戦。そしてこの決着戦は、後々にまで語り継がれる衝撃の結末を迎えることとなった。本誌はこの歴史的な一戦を、いかに伝えたか。

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――奇跡は起こりかけていた。アルシンドに目の覚めるようなボレーを許した時、ヴェルディGK菊池の脳裏にはイヤな予感が走ったという。
 
「（アントラーズGKの）古川クンが止めまくってたでしょ。なのにボクは１回のピンチで１失点。精神的にすごく難しかったし、正直なところ、ちょっと追い詰められた感じはありましたね」
 
　第１戦を２-０で勝っているヴェルディには、この時点であと１点の余裕があった。相手の守備陣は明らかに不安定で、突き放しのゴールを決めるのは、さほど難しいことではないようにも思われた。
 
　しかし、菊池は不安を隠せなかったし、そしておそらくは、緑のユニホームを着た10人も同様の予感を抱いたのではないだろうか。
 
　それぐらい、この日のヴェルディにはツキがなかった。
 
　13分、狙いすました北澤のシュートが古川の左手１本に弾き出されたのを皮切りに、彼らはこれでも、これでもかと決定機をフイにし続けた。大舞台に強いはずのカズまでが、である。“ノット・ヒズ・デイ”という言葉があるが、この日のカズはまさにそれだった。
 
　だが、この日のフィールドには、もう一人の“ノット・ヒズ・デイ”がいた。日本で最高のレフェリーと言われる高田主審である。
 
　彼がヴェルディびいきだったとは思わない。しかし、アントラーズのためにとったアドバンテージはほとんどの場合、ヴェルディ有利に働いてしまった。アントラーズの選手は感情的になり、つられるように高田主審もテンションを高めていった。
 
　そして80分、高田主審は明らかなオブストラクション（間接FK）をPKと判定してしまったのだった。そして……。
 
　見応えの多かった試合は、これで終わった。逆サイドのゴールでは、菊池が胸をなで下ろしていた。
 
「点を取ってくれたのも嬉しかったけど、一番怖い人がいなくなったわけですからね」
 
　終了直前、アントラーズはゴール正面でのFKを得た。蹴ったのはアルシンドだった。奇跡は、起きなかった。――