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40年前に貸したっきり…。ポール・インスの「ルービックキューブ事件」【英国人エディターコラム】

カテゴリ:ワールドサッカーダイジェスト編集部

スティーブ・マッケンジー

2021年07月20日

貧しい地区の出身で、とにかくハングリーだった

中学時代にチームメイトだったのが、のちにイングランド代表の主軸に上り詰めたこのインス。とにかくハングリーでプロフェッショナルだったという。 (C)REUTERS/AFLO

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 今回は"古巣"でもあるウェストハムについて語らせてもらうよ。

 ウェストハムが古巣と言ったのは、まあ本当で、中学時代に所属していたんだ。その先のユースチームには進めず、そこでプロは諦めたんだけど、それからはひとりのファンとしてウェストハムを応援している。

 高校の頃は友達と一緒によくアプトン・パーク(旧本拠地)に通ったものだ。クラブ史上最高の3位になったのが、ちょうどその頃だった。1985-86シーズンだから、プレミアリーグがスタートする前の旧ファースト・ディビジョンの時代だ。リバプール、エバートンと最後の最後まで優勝争いをして、運命の最終節、チェルシー戦のチケットを求めて長い列に並んだのを覚えている。購入したのは一番安い2・5ポンド(約350円)の席で、高校生でも十分に手が届く値段だった。いまは20~30ポンド(約2800~4200円)はするから、歳月を感じさせる話だね。

 当時はそれこそフーリガンが跋扈していた時代で、ウェストハムはその巣窟だったから、アプトン・パークはいつも殺伐としていた。スタジアム周辺はもともとお行儀が良い地域ではなくて、でも、高校生の僕たちにはヤバそうな雰囲気がカッコよく思えたりして。

 もちろん、ガラの悪い大人たちには近づかないようにはしていたけどね。2016年に移転したいまのロンドン・スタジアムは、もともとオリンピックの競技場だったからピッチとスタンドの距離が遠くて、記者席も上層階にあって臨場感がなくなってしまったのは、自分のようなオールドファンにとっては寂しいかぎり。殺気立ったパブが妖しいオーラを放っていたスタジアムの周囲も、健全なショッピングセンターに変わった。

 3位になったチームには、フランク・マカベニーというストライカーがいて、トニー・コッティと2トップを組んで点を取りまくっていた。スコティッシュらしい無骨なCFで、いまのチームにいてくれたらと思うんだよね。アントニオを助ける点取り屋の9番がいたら無敵なのに。
 20-21シーズンに最高の仕事をしたのはモイーズ監督だよ。フットボール自体に面白みはないけど、選手の持てる力を100パーセント引き出す素晴らしいオーガナイザーだ。誠実で裏表がないから、選手は全幅の信頼を寄せてピッチで全力を出し切る。好循環を作り上げる手腕はイングランドでも指折り。ユナイテッドでの失敗をもってモイーズを判断するのは大きな間違いだ。
 
 僕が一緒にプレーしたチームメイトでもっとも成功したのはポール・インス。ユナイテッドやインテルで活躍し、イングランド代表でも主軸だったセントラルMFだ。

 ポールはロンドンの貧しい地区の出身で、とにかくハングリーだった。この世界で成功してやるんだという意欲と決意と向上心を持っていて、その意味で誰よりもプロフェッショナルだった。

 ポールのことで覚えているのは、なんといっても「ルービックキューブ事件」だね。事件というほど大袈裟なものじゃないんだけど(笑)、こういう話さ。

 あの頃はルービックキューブが流行って(若い方は検索してみて)、さっそく手に入れた僕はそれをクラブハウスに持っていったんだ。練習後にみんなでカチャカチャやって、ひとしきり盛り上がったあと、さあ帰ろうと思ったらルービックキューブがどこにもない。みんなに聞いて回ると、どうやら最後に持っていたのはポールで、キューブと格闘しながら帰ってしまったらしい。

 それからずっと貸しっぱなしで40年弱、まだ返してもらっていない(笑)。 何年か経ってポールがプロデビューして、彼の試合があるたびに当時の仲間から電話がかかってきてね。「おい、ルービックキューブは返してもらったのか」なんてからかわれて。最高の思い出を作ってくれたって、ポールには感謝しているんだ。本当さ。

文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2021年6月3日号より加筆・修正
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