11歳の少年が心を込めて書いた文章は、愛するクラブのチームを率いる指揮官を感動させた。

　イタリア紙『Tuttosport』は４月29日、トリノの学校に通う11歳の少年ルカくんが課題で書いた作文を紹介した。コロナ禍の前にトリノの本拠地オリンピコで観戦したときのことを振り返った作文だ。

　先生が10点満点をつけたというルカくんの作文は、「ごく普通の日曜日だった。天高くにお日様。穏やかで、ストレスなんて無縁…でも、そうじゃない人たちもいた」と始まる。

「叫び声が聞こえてくる。１万人以上の大勢の人たちだ。彼らはいろいろな方向からやって来る。でも、集まる場所は同じ。彼らだと分かる色、それはグラナータ（えんじ色、トリノのクラブカラー）だ」

　スタジアムに到着したときの驚きを見事に描写したルカくんは、「忘れられない」と回想している。

「両チームが互いの目を見て、その静寂は続く。緊張が感じられる。一人ひとりの観客や選手の目にもその緊張が見える。まるで、命を懸けて戦うかのようだ」
 

　ゴールシーンの描写も素晴らしい。

「その瞬間、その人たち全員が同時に立ち上がり、信じられないような怒号が聞こえる。そしてマイクからは叫び声。『私たちのためにゴールを決めたのは、背番号○番の…』。そしてスタジアム全体が、そのボールをゴールマウスに蹴った選手の名前を叫ぶ。その瞬間に、彼はその人たち全員の英雄になったのだ。そして始まる歌、踊り…お祭りだ！雰囲気から感じられるのは、もう緊張ではなく、永遠の喜びだった」

　作文は、試合が終わったときの情景で締めくくられる。

「選手たちがピッチを出て、観客たちが去り、そこは全て空席になった。まさにそのだれもいないところで目を閉じる。すると、あの叫び声が聞こえてくるかのようだ。あの人たち全員の姿がまた目に映るようだ。その瞬間から、永遠にあのグラナータの虜になる」

　紙面でこの作文を目にし、トリノで指揮を執るダビデ・ニコラ監督の心は震えた。SNSで「われわれは感動した」と、練習の前にチーム全員に読み聞かせたことを明かしている。

「きょうから君の作文は、われわれのロッカールームの一部となる。次戦からすべての試合前に全員で読む。われわれが努力し、情熱と決意をもって毎日の仕事に励むのは、グラナータの名誉のためだ。君のようなサポーターの夢と期待にふさわしくあることこそ、われわれの最大の願いだ」

「このクラブを代表する誇りがいかに素晴らしいのか、改めて思い出させてくれてありがとう。わたしたちが代弁しているが、トリノは人々のものだ。君こそが、トリノ・フットボール・クラブなんだ。君とクラスメイト、ご家族に抱擁を。絶対に夢を見ることをやめないでくれ」

　残り５試合となったセリエAで、トリノは16位につけている。消化が１試合少ないものの、降格圏と同ポイントで残留を争っているところだ。ルカくんの作文は、ニコラと選手たちの心に火をつけたに違いない。名門は、来季もセリエAで戦えるのか。残り試合に注目だ。

構成●ワールドサッカーダイジェスト編集部