「“壁を壊す”のは想像を絶する作業だった」。村井チェアマンの組織形成・改編論

カテゴリ:Jリーグ

白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

2021年04月27日

言いたいことが従業員たちに伝わらない

コロナ禍以後もテレワークを続けるという真意は? 村井チェアマンの組織論は興味深いものだ。写真:Jリーグ

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 コロナ禍という未曽有の事態に直面し、Jリーグの価値が改めて問われている昨今。村井チェアマンや原副理事長の声をより多くのサッカーファンに伝えるべく、スタートさせた「J’sリーダー理論」。おふたりが交互に綴るコラム形式企画の第3回は、村井チェアマンによる「組織形成・改編論」をお届けする(サッカーダイジェスト4月22日発売号に掲載された内容を加筆したもの)。

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 Jリーグ内部の組織改編については、2014年のチェアマン就任当時から実は考えていました。コロナ禍でテレワークに移行したのは大きな変化ではなく、それ以前から「人と組織の関係性」は私の中で重要なテーマでした。

 まず着手したのは、境界を超えること。具体例を挙げれば、ひとつはチェアマン室の廃止です。

 チェアマン室とは、歴代4名のチェアマンが使用されていた大部屋を指します。確かなステイタスが感じられ、簡単なミーティングができる机もありました。ただ、チェアマンに就任するまでサッカー界と縁のなかった私はそこであれこれ指示するよりも、従業員と接して、いろんなことを教えてもらいたかったのです。そもそも、最初の約半年間はクラブへの挨拶回りでチェアマン室にほとんどいませんでした。そういう事情もあって、廃止の決断に至りました。

 身近な壁を取っ払って、自分の居場所と従業員との関係を考え直すところから、私の仕事は始まったような気がします。ただ、私はリーダーシップもカリスマ性もなくて、実際、言いたいことが従業員たちに伝わらない。笛吹けど踊らず、といった状態で、「これはなんだろう?」と頭を悩ます時期もありました。熟考した結果、ある結論に行き着きました。自分に原因があるのは当然ながら、組織にも問題があるのではないか、と。

 当時、Jリーグの組織は複雑でした。公益社団法人の日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の傘下には6つの株式会社(Jリーグメディアプロモーション、Jリーグエンタープライズ、J ADVANCE、Jセイフティ、Jリーグフォト、Jリーグデジタルエンタテインメント)があり、それぞれに社長がいて、6通りの人事制度がありましたから。組織が細分化されている分、壁も多い。

 しかも、関連の6社の株主には公益社団法人のJリーグ(日本プロサッカーリーグ)と公益財団法人の日本サッカー協会(以下JFA)の他に、Jリーグの特定のクラブ、放送事業なども含まれていました。例えば、ユニホーム販売を取り扱うJリーグエンタープライズの当時の出社比率は、Jリーグが38パーセント、JFAが17パーセント、Jリーグの特定のクラブが42パーセント、その他が3パーセントという具合でした。JリーグとJFAで関連6社の株式を独占できなかったのは、利益目的の事業ができない公益法人は関連6社それぞれの株式50パーセント以上を保有できない決まりになっていたからです。

 それぞれの出資比率も複雑で、関連会社との情報共有もスムーズにできない状況では、組織として一体感が生まれない。これでは私の意思が届かないのも当然で、だからこそこれらの壁をすべてぶち壊そうと。そういう決意をしました。
 
 しかし、これらの壁を壊すのは想像を絶する作業でした。株式会社Jリーグホールディングスを新たに立ち上げ、そこに関連6社を吸収合併してひとつにまとめたいという私の意向に対し、それはもう反対意見が多数ありました。

 難航したのは、株式の買い戻しです。従来の体制で利益を得ている方々は株式を手放せばある意味損をしてしまうわけですから、なかなか同意を得られない。法律上、株式は「売れ」と命じることはできません。私有の財産ですから、所有者が手放してくれるのを待つしかありません。結果的に買い戻しを承諾してくれるまで、かれこれ1年くらいかかったと記憶しています。

 交渉の過程で強く思ったのは、インターネット社会が進み、いろんなものがデジタル化されていくということでした。その波に乗り遅れてはいけないし、それこそ壁を取っ払って、何事もスピーディに解決する。何かを決めようとする際に関連6社それぞれで取締役会を開いてOKを取らないといけない時代は古いと感じていました。ですので、そのあたりをしっかりと説明して株主の方々には最終的に納得してもらいました。
 
 関連6社の従業員にも「ひとつの会社に移す」という許諾を得て、2017年4月に株式会社Jリーグホールディングスを設立しました。株主をJリーグ(出資比率は47・8パーセント)、JFA(同17・4パーセント)、政府系投資会社(同34・8パーセント)の3社だけにして、従業員全員の所属をJリーグホールディングスにしました。関連6社だったJリーグメディアプロモーション、Jセイフティ、J ADVANCE、Jリーグマーケティング、JリーグデジタルはJリーグホールディングスが出資率100パーセントの子会社となったことで、情報交換も従業員の異動もスムーズにできるようになりました。[編集部・注/株式会社Jリーグホールディングスは2021年1月1月に株式会社Jリーグと改名。組織としてはマルチメディアカンパニー、エンターテインメントカンパニー、グローバルカンパニー、コーポレートの4部門で成り立つ]
 
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