CLアタランタ戦の勝利を呼び込んだジダン采配の“妙”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2021年03月04日

苦しい戦況のほうが、選手たちが力を出し切れる

怪我人続出のなか、難敵撃破に導いたジダン監督。(C)Getty Images

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「相手が一人少なくなった試合で、決して素晴らしい試合をしたわけではない。しかし、大事なのは勝つことだ」

 チャンピオンズリーグ、ラウンド16の第1レグでアタランタに、0-1と敵地で勝利を収めた後、レアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督は語っている。淡々としたコメントは、実にジダンらしい。彼は真っ直ぐに”正攻法”で勝利を求め、最後はそれを手にしたのだ。

 ジダンは、策士ではない。

 選手たちを束ね、その良さを引き出す。美学に殉じるようなボールポゼッションか、6バックで守りを固めるか、のような二者択一のような極端なことを好まない。単純に、勝負の中で選手たちの柔軟性や活力を信じられる。試合を進める中、選手個々が相手を凌駕する戦い方というのか。先進的な戦術トレーニングは、むしろ枠にはめてしまう部分があると考えている。

 むしろ苦しい戦況のほうが、選手たちが力を出し切れるのだ。

 アタランタ戦、マドリーはセルヒオ・ラモス、カリム・ベンゼマという攻守の要を欠いていた。また、右サイドバックもダニエル・カルバハル、アルバロ・オドリオソラなど本職の選手がケガ。他にも故障者が多く、ベストの先発を組めない苦境だった。

【動画】これで利き足じゃない? アタランタ戦でメンディが“右足”で決めた劇的ゴラッソはこちら
 
 しかし、ナチョ、イスコ、そしてルーカス・バスケスと代役になった選手たちが、際立ったプレーを見せている。

 ナチョはユーティリティなディフェンスで、セルヒオ・ラモスのバックアッパーとして、高い集中力を見せた。相手のエースを完封。鋭い攻め上がりから、際どいシュートまではなった。

 イスコはベンゼマの代わりで、“偽9番”を担当。アタランタが3バックだっただけに、その間やライン間を漂うことで、相手を引き付け、動かし、味方にスペースを与えた。相手に退場者が出てからは、ボール技術を生かし、躍動を増している。

 ルーカス・バスケスは、右サイドを支配していた。ディフェンスは本職ではないが、高い位置を取ることで、本来の攻撃の良さを発揮。周りを生かすタイミングも心得ており、その貢献度は出色だった。

「(決勝点になったセットプレーは)作戦通りだが、最後にシュートを打つのは、(フェルラン・)メンディではなかったんだよ」

 ジダンは試合後に明かしているが、変幻の戦いは僥倖も生んだということか。ゴール直後、思わぬ展開に破顔しているだけに、それは真実だろう。しかし、戦況を踏まえて、ショートコーナーを選択させていたことが生み出したゴールだったとも言える。トニ・クロースは世界有数のキッカーだが、ゴール前の相手のディフェンス力を計算に入れ、ボールを動かすことで撹乱し、得点を狙っていた。

 相手が一人退場になったシーンも含めて、ツキがあった、と言えるかもしれない。アタランタは、力を出し切れなかった。しかし、ジダンは戦いの流れを読み、勝利を導き出した、とも言えるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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