言葉で何を言われても、そこに意味は見出せない。

現役時代のみずからの経験から選手心理を理解し、それを根幹とするアンチェロッティのマネジメントはチームに受け入れられている。静かなマドリーのロッカールームは、バルサとは対照的だ。 (C) Getty Images
いま、スペインで話題騒然となっているのが、バルサのネイマールがセビージャ戦(31節)の交代時に見せたジェスチャーだ。
引き分けに終わったその試合の後半、みずからの背番号が掲げられた交代ボードを見たネイマールは、明らかに不満げな表情を浮かべ、ピッチをゆっくりと歩いてベンチに下がっていった。そしてルイス・エンリケ監督の後ろを通るとき、皮肉ともいえる笑顔を作り、イタリア人がよくやる不満のジェスチャーを見せたのだった。
ベンチに座ってからは、スパイクを投げつけるなど怒りを露にし、ハビエル・マスチェラーノが止めに入るほどだった。各局のテレビ番組がこの場面を取り上げ、何度もスローで再生するなど、この件は国中を騒がせている。
このブラジル人の気持ちは分からなくもない。彼はこの試合でメッシにアシストを送り、みずからもGKが一歩も動けない華麗なフリーキックを決めた。ドリブルで股抜きを二度も披露するなど、ピッチで最も輝いた選手だった。
ネイマールの不満とジェスチャーについて、L・エンリケは「そんなくだらないことには興味はない」と一蹴したが、両者の間に決定的な亀裂が生じる可能性は否定できないだろう。
ビッグクラブを率いる監督の一番の悩みが、まさにこの種の問題だ。起用法に関する選手たちの不満を、いかにマネジメントするか。
この点、レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督は人心掌握が非常に巧みだ。ネイマールを怒らせたL・エンリケのような間違いはめったに犯さない。
アンチェロッティは選手、とくに控えの選手に接する際にあることを心掛けている。やや意外なその信条とは、
「起用法に関して、その理由を詳しく説明しない」
というものだ。
現役時代のアンチェロッティは、ローマやミランでプレーし、イタリア代表でも活躍した名選手だった。そうした選手としての経験から、あえて多くを語らないマネジメントスタイルに行き着いたのだと言う。
「なぜ先発から落ちたのか。なぜ、監督がその決断を下したのか。それを控え選手に説明することはほとんどない。(そうするようになったのは)現役時代の自身の経験からだ。スタメンから外れた私に、その理由を事細かに説明する監督がいたが、何を言われても納得などできなかった。選手にとって重要なのは、先発でピッチに立つというその事実のみ。言葉で何を言われても、そこに意味は見出せない」
アンチェロッティの考え方と方法論は、チームの重鎮たち――イケル・カシージャスやセルヒオ・ラモス、マルセロやクリスチアーノ・ロナウドに、しっかりと受け入れられている。だから、バルサとは対照的に、マドリーのロッカールームから不協和音は聞こえてこないのだ。
ラファエル・ヴァランヌも、ファビオ・コエントランも、サミ・ケディラも、アシエル・イジャラメンディも、ヘセ・ロドリゲスも、ケイラー・ナバスも、控えに甘んじる現状に満足していないはずだ。しかし、誰ひとり表立って不満を漏らすことはない。
たしかに、ハビエル・エルナンデスは愚痴をこぼした。メキシコ代表に招集されてマドリードを離れた際に、出場機会の少なさを嘆いたが、しかしアンチェロッティを批判したわけではなかった。
何も語らない指揮官。とはいえ、控えの選手を軽視しているわけでは決してない。要所要所でチャンスを与え、信頼を示しているのだ。
前節のエイバル戦ではナバスにゴールマウスを任せ、チチャリート(エルナンデスの愛称)をCFで先発させた。ベンチに座らせる理由の説明だけをして、決してスタメンで起用しようとしない監督とは、アンチェロッティはそこが違うのだ。
アンチェロッティはサッカーにおける真理を理解している。
「選手にとって良き監督とは自分を起用する監督でしかない」
という真理を、だ。
だからアンチェロッティは、控えの選手に余計な説明はしない。その代わりに先発の機会を与えるのだ。こうしてイタリア人指揮官はチームからリスペクトされ、信頼されるのである。
マドリーの静けさに比べたら、バルサはそれこそ喧噪に包まれている。ネイマールだけでなく、控えに甘んじているペドロ・ロドリゲスも不平をこぼし、ベンチにはシャビという火種が燻っている。契約問題を抱えるダニエウ・アウベスも不満分子になりかねない。
残り7試合で、バルサとマドリーの勝点差はわずか2だ。
もしかしたらその差を埋めるのは、指揮官のマネジメント能力かもしれない。
【記者】
Pablo POLO|MARCA
パブロ・ポロ/マルカ
スペイン最大のスポーツ紙『マルカ』でレアル・マドリー番を務める敏腕記者。フランス語を操り、フランスやアフリカ系の選手とも親密な関係を築いている。アトレティコ番の経験もあり、首都の2大クラブに明るい。
【翻訳】
豊福晋
引き分けに終わったその試合の後半、みずからの背番号が掲げられた交代ボードを見たネイマールは、明らかに不満げな表情を浮かべ、ピッチをゆっくりと歩いてベンチに下がっていった。そしてルイス・エンリケ監督の後ろを通るとき、皮肉ともいえる笑顔を作り、イタリア人がよくやる不満のジェスチャーを見せたのだった。
ベンチに座ってからは、スパイクを投げつけるなど怒りを露にし、ハビエル・マスチェラーノが止めに入るほどだった。各局のテレビ番組がこの場面を取り上げ、何度もスローで再生するなど、この件は国中を騒がせている。
このブラジル人の気持ちは分からなくもない。彼はこの試合でメッシにアシストを送り、みずからもGKが一歩も動けない華麗なフリーキックを決めた。ドリブルで股抜きを二度も披露するなど、ピッチで最も輝いた選手だった。
ネイマールの不満とジェスチャーについて、L・エンリケは「そんなくだらないことには興味はない」と一蹴したが、両者の間に決定的な亀裂が生じる可能性は否定できないだろう。
ビッグクラブを率いる監督の一番の悩みが、まさにこの種の問題だ。起用法に関する選手たちの不満を、いかにマネジメントするか。
この点、レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督は人心掌握が非常に巧みだ。ネイマールを怒らせたL・エンリケのような間違いはめったに犯さない。
アンチェロッティは選手、とくに控えの選手に接する際にあることを心掛けている。やや意外なその信条とは、
「起用法に関して、その理由を詳しく説明しない」
というものだ。
現役時代のアンチェロッティは、ローマやミランでプレーし、イタリア代表でも活躍した名選手だった。そうした選手としての経験から、あえて多くを語らないマネジメントスタイルに行き着いたのだと言う。
「なぜ先発から落ちたのか。なぜ、監督がその決断を下したのか。それを控え選手に説明することはほとんどない。(そうするようになったのは)現役時代の自身の経験からだ。スタメンから外れた私に、その理由を事細かに説明する監督がいたが、何を言われても納得などできなかった。選手にとって重要なのは、先発でピッチに立つというその事実のみ。言葉で何を言われても、そこに意味は見出せない」
アンチェロッティの考え方と方法論は、チームの重鎮たち――イケル・カシージャスやセルヒオ・ラモス、マルセロやクリスチアーノ・ロナウドに、しっかりと受け入れられている。だから、バルサとは対照的に、マドリーのロッカールームから不協和音は聞こえてこないのだ。
ラファエル・ヴァランヌも、ファビオ・コエントランも、サミ・ケディラも、アシエル・イジャラメンディも、ヘセ・ロドリゲスも、ケイラー・ナバスも、控えに甘んじる現状に満足していないはずだ。しかし、誰ひとり表立って不満を漏らすことはない。
たしかに、ハビエル・エルナンデスは愚痴をこぼした。メキシコ代表に招集されてマドリードを離れた際に、出場機会の少なさを嘆いたが、しかしアンチェロッティを批判したわけではなかった。
何も語らない指揮官。とはいえ、控えの選手を軽視しているわけでは決してない。要所要所でチャンスを与え、信頼を示しているのだ。
前節のエイバル戦ではナバスにゴールマウスを任せ、チチャリート(エルナンデスの愛称)をCFで先発させた。ベンチに座らせる理由の説明だけをして、決してスタメンで起用しようとしない監督とは、アンチェロッティはそこが違うのだ。
アンチェロッティはサッカーにおける真理を理解している。
「選手にとって良き監督とは自分を起用する監督でしかない」
という真理を、だ。
だからアンチェロッティは、控えの選手に余計な説明はしない。その代わりに先発の機会を与えるのだ。こうしてイタリア人指揮官はチームからリスペクトされ、信頼されるのである。
マドリーの静けさに比べたら、バルサはそれこそ喧噪に包まれている。ネイマールだけでなく、控えに甘んじているペドロ・ロドリゲスも不平をこぼし、ベンチにはシャビという火種が燻っている。契約問題を抱えるダニエウ・アウベスも不満分子になりかねない。
残り7試合で、バルサとマドリーの勝点差はわずか2だ。
もしかしたらその差を埋めるのは、指揮官のマネジメント能力かもしれない。
【記者】
Pablo POLO|MARCA
パブロ・ポロ/マルカ
スペイン最大のスポーツ紙『マルカ』でレアル・マドリー番を務める敏腕記者。フランス語を操り、フランスやアフリカ系の選手とも親密な関係を築いている。アトレティコ番の経験もあり、首都の2大クラブに明るい。
【翻訳】
豊福晋