近い将来の「主役」も現在はチームに合わせなければならない。

3-0で勝利したEURO2016予選のイスラエル戦では2ゴール1アシスト。FKではキッカーを務めて直接決めた。だからといって「マドリーでもベイルを自由にプレーさせるべき」ということにはならない。写真は昨年11月のベルギー戦のもの。 (C) Getty Images
今回の代表ウイークで、最も素晴らしいパフォーマンスを披露したレアル・マドリーの選手は、間違いなくガレス・ベイルだった。
ウェールズ代表のユニホームを着た彼は、水を得た魚のように活き活きと動き回り、得点も決め、チャンスに何度も絡んだ。
それは今季、いまだ100パーセントの力を発揮できず、サポーターのブーイングとメディアの批判にさらされている現状に対する、彼なりのメッセージのようにも思えた。
活躍の鍵になったのは、ベイルのポジションだ。
ウェールズ代表での彼は、メディアプンタ(トップ下)としてプレー。守備のタスクも少なく、上下左右に自由に動き回りながら、素晴らしいプレーを見せていた。ウェールズでは、他の10人がベイルのためにプレーしている。彼の能力を活かすことが、ウェールズにとって最も大事なことだからだ。
メディアプンタとしての活躍によって、スペインのメディアの間には「ベイルをトップ下で起用せよ」という意見も出てくるようになった。私が所属する『マルカ』紙もそのひとつだ。
しかし、それはマドリーでは不可能だ。このクラブでは、誰ひとりとして自由気ままにプレーすることは許されない。クリスチアーノ・ロナウドも、カリム・ベンゼマも、ハメス・ロドリゲスも、イスコも、それは同じだ。
マドリーではウェールズのように自由にプレーできないということを、ベイルは知るべきである。
現在、クリスチアーノとベンゼマのふたりは、カルロ・アンチェロッティ監督にとって替えの効かない前線の選手となっている。守備時には4-3-3から4-4-2に変形する彼のシステムにおいて、ベイルには右サイドの守備を求められる。当然、前線のふたりよりは守備時にポジションを下げざるをえない。
もっと自由にやりたい、という不満はあるかもしれない。しかし多くのスター選手が、このような道を歩んできた。リオネル・メッシも、ロナウジーニョがいた頃には、現在のような自由は与えられていなかった。ネイマールも、メッシがいる現在は「王様」としてプレーしていない。
ベイルも、数年後にはきっとマドリーの主役としてプレーしていることだろう。昨シーズンのベイルは素晴らしいパフォーマンスを見せた。右サイドでもそれができる能力は秘めているのである。
クラブはベイルをクリスチアーノの後継者として考えており、彼にはそうなるだけの能力はある。しかし現在は、彼がチーム状況に合わせなければならない。クラブが彼に合わせる時ではないのだ。
英国系の選手は、スペイン、特にマドリーでは成功しない――。スペインではよくそういわれる。マイケル・オーウェンにジョナサン・ウッドゲイトの例があるからだ。デイビッド・ベッカムにしろ、大成功を収めたわけではない。
しかしベイルは前例を覆し、マドリーの英雄になる可能性を十分に秘めている。
チーム内のある選手に聞いたところでは、ベイルはあまりグループに溶け込もうとしていないそうだ。表面上の関係をキープしているだけだという。今こそ、彼はよりグループ意識を持つべきだろう。仲間とともに戦い、仲間とともに苦しむのだ。
サッカーは変わった。かつてのように、練習後に選手たちが共に昼食を採ることも少なくなってきた。しかしベイルには、もう少し近づいて仲間との距離を縮めてほしい。それこそが、彼が現状を打破するのに最も必要なことだと思う。
文:パブロ・ポロ
翻訳:豊福晋
Pablo POLO|MARCA
パブロ・ポロ/マルカ
スペイン最大のスポーツ紙『マルカ』でレアル・マドリー番を務める敏腕記者。フランス語を操り、フランスやアフリカ系の選手とも親密な関係を築いている。アトレティコ番の経験もあり、首都の2大クラブに明るい。
ウェールズ代表のユニホームを着た彼は、水を得た魚のように活き活きと動き回り、得点も決め、チャンスに何度も絡んだ。
それは今季、いまだ100パーセントの力を発揮できず、サポーターのブーイングとメディアの批判にさらされている現状に対する、彼なりのメッセージのようにも思えた。
活躍の鍵になったのは、ベイルのポジションだ。
ウェールズ代表での彼は、メディアプンタ(トップ下)としてプレー。守備のタスクも少なく、上下左右に自由に動き回りながら、素晴らしいプレーを見せていた。ウェールズでは、他の10人がベイルのためにプレーしている。彼の能力を活かすことが、ウェールズにとって最も大事なことだからだ。
メディアプンタとしての活躍によって、スペインのメディアの間には「ベイルをトップ下で起用せよ」という意見も出てくるようになった。私が所属する『マルカ』紙もそのひとつだ。
しかし、それはマドリーでは不可能だ。このクラブでは、誰ひとりとして自由気ままにプレーすることは許されない。クリスチアーノ・ロナウドも、カリム・ベンゼマも、ハメス・ロドリゲスも、イスコも、それは同じだ。
マドリーではウェールズのように自由にプレーできないということを、ベイルは知るべきである。
現在、クリスチアーノとベンゼマのふたりは、カルロ・アンチェロッティ監督にとって替えの効かない前線の選手となっている。守備時には4-3-3から4-4-2に変形する彼のシステムにおいて、ベイルには右サイドの守備を求められる。当然、前線のふたりよりは守備時にポジションを下げざるをえない。
もっと自由にやりたい、という不満はあるかもしれない。しかし多くのスター選手が、このような道を歩んできた。リオネル・メッシも、ロナウジーニョがいた頃には、現在のような自由は与えられていなかった。ネイマールも、メッシがいる現在は「王様」としてプレーしていない。
ベイルも、数年後にはきっとマドリーの主役としてプレーしていることだろう。昨シーズンのベイルは素晴らしいパフォーマンスを見せた。右サイドでもそれができる能力は秘めているのである。
クラブはベイルをクリスチアーノの後継者として考えており、彼にはそうなるだけの能力はある。しかし現在は、彼がチーム状況に合わせなければならない。クラブが彼に合わせる時ではないのだ。
英国系の選手は、スペイン、特にマドリーでは成功しない――。スペインではよくそういわれる。マイケル・オーウェンにジョナサン・ウッドゲイトの例があるからだ。デイビッド・ベッカムにしろ、大成功を収めたわけではない。
しかしベイルは前例を覆し、マドリーの英雄になる可能性を十分に秘めている。
チーム内のある選手に聞いたところでは、ベイルはあまりグループに溶け込もうとしていないそうだ。表面上の関係をキープしているだけだという。今こそ、彼はよりグループ意識を持つべきだろう。仲間とともに戦い、仲間とともに苦しむのだ。
サッカーは変わった。かつてのように、練習後に選手たちが共に昼食を採ることも少なくなってきた。しかしベイルには、もう少し近づいて仲間との距離を縮めてほしい。それこそが、彼が現状を打破するのに最も必要なことだと思う。
文:パブロ・ポロ
翻訳:豊福晋
Pablo POLO|MARCA
パブロ・ポロ/マルカ
スペイン最大のスポーツ紙『マルカ』でレアル・マドリー番を務める敏腕記者。フランス語を操り、フランスやアフリカ系の選手とも親密な関係を築いている。アトレティコ番の経験もあり、首都の2大クラブに明るい。