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「名選手だったから、人が好いから、長くいるから…」優れた人物でも、適材適所でなければクラブの損失となる【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年12月09日

マネジメントが破綻したクラブは選手が悲鳴を上げる

選手としてパッとしなかったモンチ(右)だがSDとして辣腕を振るっている。(C) Getty Images

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 歴史上の人物で、“暗愚”とされる者たちがいる。

 例えば、今川家を没落させたと言われる今川氏真である。桶狭間の戦いで父、今川義元が討たれた後、弔い合戦に及ぶどころか、領土を侵され、最後は籠城した後、降伏した。その惰弱さと命を惜しむ様子が、武将としては軽んじられる要素になった。しかし氏真は文化人としては一流で、和歌や蹴鞠は当代一だったという。つまり、戦乱ではなく治世であったら、高い評価を受けた人物だったのだろう。

 あるいは、戦国最強と言われる武田家を滅ぼしたと言われる武田勝頼は、設楽原で織田信長、徳川家康連合軍に挑んだ戦いが「無謀」とされ、厳しい批評を浴びてきた。しかし少なくとも一人の武将としての才覚は群を抜き、局面の戦いではほぼ無敵で、不落の城を落とし、実は領土も最大まで広げている。信長に「強すぎる大将」と評されたほどで、大名ではなく、一人の武将だったら、高名を残していたはずだ。

 人物論というのは難しい。その立場によって、評価が大きく変わるのだ。
 
 これは、サッカーの世界でも同じである。

「名選手は、必ずしも名指導者ではない」

 それはあらゆるスポーツに共通するところだが、指導者と一口に言っても、監督とコーチに求められる資質はまるで違う。さらに育成指導に関わることは、とても専門的な部分がある。忍耐力も求められ、地道ながら現場では熱を放って仕事をするキャラクターが求められる。

 さらに、そうした指導者を司って、マネジメントするスポーツディレクターやGMは、ほとんど独立した職務と言っていいだろう。

 日本サッカーの現場で、改革が求められるのは、まさにディレクション、マネジメントする部門と言えるかもしれない。自分のエゴを出さずに、人を見極め、登用できる。それは簡単ではない仕事だ。

 しかしディレクターやGMが有能なクラブは、自ずと結果を出している。ラ・リーガ、セビージャのモンチなどは好例だろう。その慧眼で選んだ監督、選手は一貫性もあり、自ずと結果を出している。Jリーグでは、鹿島アントラーズのフットボールディレクター、鈴木満氏への評価が高い。スカウティングに定評があり、チームとしての地力につなげている。

 一方で、マネジメントが破綻したクラブは、成績は低迷し、選手たちが悲鳴を上げる。GMやSDが「名選手だったから、人が好いから、指導者として頑張ったから、クラブに長くいるから」という条件で選ばれている場合、ねじれが出る。

「何をしてもうまくいかない!」

 設計図が違うのだから、現場で奮闘や修正も焼け石に水となる。ぐちゃぐちゃになりながらも、必死に戦うしかない。それでどうにか結果につなげられることもあるのだが、長続きはしないだろう。

 適材適所。

 優れた人物も、正しいポストでなければ、力を発揮するどころか、クラブに損失を与えることになる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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