【川崎】中村憲剛の決断に感じた想い。鬼木達監督の驚きと後押し

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2020年11月02日

「正直、ビックリしたというのが一番の想いです」

FC東京戦でゴールを喜び合ったふたり。様々な想いが交錯した。(C)SOCCER DIGEST

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 10月31日のFC東京戦の77分。直前に決勝弾を奪った中村憲剛が脇坂泰斗との交代でピッチを後にすると、満面の笑みで迎え入れたのが鬼木達監督だった。ふたりはグータッチを交わし、ゴールを喜び合う。ただでさえ微笑ましい1シーンであったが、翌日の発表を受けて見返せばさらに意味の深い場面だったと感じる。

 翌11月1日、急遽、開かれた会見で発表されたのが、川崎のレジェンド・中村の今季限りでの引退だった。35歳の誕生日を迎えた時に、40歳をリミットにと考えていたという司令塔は、FC東京戦で40歳のバースデーゴールを奪った翌日に「フロンターレを引退します」と18年、所属し続けたクラブ名を入れ、今季限りでスパイクを脱ぐ決断を伝えた。

 鬼木監督がその選択を告げられたのは10月23日のことだったという。タイミングは今季リーグ戦で唯一黒星を喫していた名古屋に、ホームでリベンジを果たし、同一シーズンでの新記録となるリーグ11連勝を達成した5日後のこと。加えて中村は名古屋戦に先発し、2アシストと勝利に貢献。今年8月末に左膝の怪我から約10か月ぶりに戦列復帰した男は、健在ぶりを示していたのだ。

 鬼木監督が感じたのは、率直に驚きだったという。

「正直、ビックリしたというのが一番の想いです。名古屋戦はプレッシャーがあるなかで期待に応えてくれた。どうかなと思っていた不安がなくなった。(プレーを)続けていくキッカケになるゲームだと思っていたんです」

 だからこそ「まだできるんじゃないか」と自身の素直な想いを中村に伝えたという。しかしここ5年、「リミットを設けたからこそ頑張れた」との中村の言葉に、その場では決断を尊重した。


 

2018年にはリーグ連覇を達成。指揮官と司令塔として黄金時代を築いた。(C)SOCCER DIGEST

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 それでも「その何日か後にかなり引き留めました。自分のなかで、もう一度考えて、もう一回考え直したほうが良いんじゃないかと話をしたんです」と翻意を促す。それほど、名古屋戦のパフォーマンスは指揮官を納得させるもので、誰の目から見ても期待を抱かせるプレーだった。

「引き止めて後悔させて良いのかという想いもありました。だから(話を聞いた)当日は納得したところがありました。でも実際に引退した身としてはまだやりたい、やれたという想いもあります。

 自分の時とはまったく違う形ですし、もしかしたら仮に人に言われてやって、そうすると、きついかもしれない。後悔が出るかもしれない。言ったほうも、やったほうも後悔するかもしれない。でもそれも人生だろうという話もしました。ただ彼の覚悟は相当に強かった」

 そして迎えた10月30日のFC東京戦。「練習でも結果を残してくれていた」と2試合連続で中村を先発起用すると、数々の歴史を作ってきた男は、さすがの仕事ぶりを果たす。74分、絶妙な走り込みとポジショニングで相手エリア内に侵入すると、左サイドを突破した三笘薫のマイナスの折り返しに左足で合わせる。チームを勝利に導く決勝ゴールだった。

 件の拳を突き合わせた瞬間の想いを訊くと、指揮官は「本当に持っているんだな」としみじみ振り返りながら、こう続ける。

「決意みたいなものが、名古屋戦で感じたものを、東京戦でも感じられました。やっぱり気持ちのところ。気持ちがどんなプレーヤーでも動かすんだなと。本当に凄かったと思います」

 プレーヤー中村憲剛を見られるのは残り2か月だ。引退発表を受けた翌日、練習を行なったチームに関して指揮官は「動揺がないと言ったら嘘になります」と説明する。

 それでもクラブ一丸、気持ちは固まっている。

「ケンゴのためにという想いになったら、ケンゴの負担にもなります。だから一緒にタイトルを取っていこうと。今年の目標である複数タイトルをフロンターレの歴史に刻んでいきたいです」

 クラブに関わる誰もが、これまで同様に幸福なフィナーレを目指して、強い想いでシーズンを戦い切る覚悟だ。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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