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拳銃、逮捕、レンガ積み、娘の心停止…オサスナで大ブレイクした“チミー”アビラの知られざる壮絶なキャリア【現地発】

カテゴリ:連載・コラム

エル・パイス紙

2020年03月04日

娘を見舞うため、毎日自転車で30キロ離れた病院へ

故障する前までは20試合で9ゴールと躍動していたアビラ。(C)Getty Images

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 2020年1月24日は、“チミー”ことエセキエル・アビラにとって、ハッピーな1日になるはずだった(チミーの愛称は、アルゼンチンのバーベキュー料理アサードなどにかけて食べるステーキソース「チミチュリ」に由来する)。母国の強豪ボカ・ジュニオルスに所属する実弟のガストン・アビラが、昨年3月に負った十字靭帯断裂の大怪我から約10か月ぶりに実戦復帰する日だったからだ。

 しかしその日、オサスナに所属するチミーには過酷な試練が待ち構えていた。本拠地エル・サダールで行われたラ・リーガ21節のレアル・ソシエダ戦で、今度は自らが十字靭帯断裂の重傷を負ってしまったのだ。開幕以来、そのハートのこもったプレーでチームを牽引してきたアイドルの突然のアクシデントにスタジアムの空気が凍り付いた。

 アビラ一家の人生は、これまでも試練の連続でもあった。母親のグリンガ・ガルシエラは、チミーがまだ幼かった時に離婚。女手ひとつで9人の子供を育て上げた。家はロサリオの貧困地区に位置し、麻薬や犯罪が日常と隣り合わせに存在していた。そんなチミーにとって、唯一の気晴らしがフットボールだった。

「今の自分があるのはフットボールのおかげだ。心から感謝している」

 そう述懐したチミーはこう続ける。

「だから200枚の色紙にサインすることなんてまったく苦痛にならない。子供の頃のアイドルは(ファン・ロマン)リケルメだった。テレビで彼のプレーをいつも見ていた。だから、いま僕のことをアイドルとして憧れてくれている子供たちを幸せにする義務が自分にはある。僕もそれで幸せになれる。彼らが向けてくれる笑顔が、すなわち僕が子供の時にリケルメに向けていた笑顔なんだ」
 
 こうして幼い頃からフットボールに情熱を傾けたチミーは、地元のティロ・フェデラルに入団した。しかし施設内でユニホームを盗んだとしてクラブに告発され、窃盗容疑で逮捕されるという事件が発生。退団を余儀なくされた。

 その後、いくつかのチームの入団テストを受けたが、色よい返事をくれるところは少なかった。入団が許可されたチームも給料の滞納が続き、2年間フットボールを辞めざるを得ない状況に陥った。すでに結婚し、妻との間にはエルネイちゃんが誕生していた。

 そして、当時20歳を迎えていたチミーにまたしても試練が襲う。その愛娘が生死の狭間をさまよう呼吸器の病気を患ったのだ。2度心臓が停止し、チミーはベッドの横で回復を祈り続けた。また娘が入院していた病院は、家から30キロの距離にあったが、彼は毎日自転車で通い続けた。その浮いたバス運賃を妻のマリアのコーヒー代に使うためだった。
 
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