アウェーサポーターの入場禁止で魅力が消えゆくアルゼンチンの“カンチャ”【南米サッカー秘蔵写真館】

カテゴリ:ワールド

ハビエル・ガルシア・マルティーノ

2019年02月27日

突如として浮遊した“豚”に想うこと

リーベルのカンチャに浮かんだ豚は、アウェーサポーターの入場が許された時代の風景だ。 (C) Javier Garcia MARTINO

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 リーベル・プレートの本拠地モヌメンタルに豚が浮遊していた。これは2012年10月28日に行なわれた国内リーグ第12節、スーペルクラシコのハーフタイムに押さえたワンショットだ。スタンドの上階に陣取る宿敵ボカ・サポーターを茶化すため、リーベル・サポーターが青と黄色(ボカの色)のシャツを着た豚のバルーンを飛ばした時のものである。

 写真で見ただけではわかりづらいかもしれないが、豚のサイズはかなり巨大だ。もちろん、アルゼンチンのおもちゃ屋に行って普通に売られているというわけでもなければ、普段のリーグ戦のハーフタイム・ショーで毎試合のようにバルーンを浮かばせるなどという企画があったわけでもない。誰かが金を払って特注で作らせ、モヌメンタルまで運び、ピッチに備え付け、ハーフタイムでガスを入れて飛ばすという大掛かりなジョークをやってみせたのである。

 この時のリーベルは、前年に2部降格の屈辱を味わったばかりで、1部復帰後初めてとなるスーペルクラシコで、ボカのサポーターから大いに嘲笑されることを想定した上での演出だった。青空にぷかぷかと浮かぶ巨大な豚に、ボカのサポーターたちも怒るどころか爆笑していたのを覚えている。

 そう、当時アルゼンチンでは、まだアウェーチームのサポーターの入場が許されていた。こう書くと驚かれるかもしれないが、この国ではかれこれ5年半ほど前から、カンチャ(スタジアム)周辺での暴動を避けるため、アウェーサポーターの入場が禁じられている。

 ここ最近は、1部のクラブが集結するブエノスアイレスなど首都圏の州では、試合のカードによってアウェーサポーターを受け入れるケースも出てきているが、基本的に入場禁止令は全国規模で完全に解除されていない。

 もっとも、これによってカンチャ周辺が安全になったのかというとそうではなく、暴動は相変わらず頻繁に起きている。同じチームのサポーター同士の抗争や、チケットを持たずに入場しようとして荒れ狂うファンに向けて、警察がゴム弾や催涙弾を発砲して負傷者が出るなどの事例は日常茶飯事だ。

 実際、昨年のコパ・リベルタドーレス決勝で起きたリーベル・サポーターによるボカのバス襲撃事件などは、試合会場周辺の安全確保における根本的な問題が、アウェーサポーターの存在だけに留まらないことをはっきり証明している。
 
 アウェーのサポーターがいないことによる損害もある。

 例えば、ボカやリーベルのように大勢のソシオを抱えるビッグクラブならば、ホームのサポーターだけでもスタンドを満員にすることは可能だが、中堅以下のクラブはそれができないのだ。その影響もあり、今や1部リーグのほとんどのカンチャで、スタンドの半分以上が空席のまま試合が行なわれている。

 興行収入で利益を出すこともできず、ただでさえ資金繰りが苦しい小クラブにとって、アウェーサポーターへのチケット売り上げによる収入に頼れないのは厳しいことなのだ。

 そして何よりも、大声で歌いながら競り合う応援合戦がなくなってしまったことや、この「モヌメンタルに浮遊する巨大な豚」のような突拍子もない演出が、リーグ戦で見られなくなってしまったことが悔やまれる。相手を挑発して暴動を引き起こすきっかけとなってはならないが、何もかも禁じてしまえばいいというものではないだろう。

 国際的なルールに従って、紙吹雪や横断幕の持込みまで禁じられるようになった昨今、アウェーサポーターの不在はカンチャの魅力がどんどん失われていくようで、残念で仕方がない。

文●ハビエル・ガルシア・マルティーノ text by Javier Garcia MARTINO
訳●チヅル・デ・ガルシア translation by Chizuru de GARCIA

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