バイエルン、圧倒的な戴冠劇のなぜ

カテゴリ:メガクラブ

中野吉之伴

2014年03月27日

自分の哲学をただ押しつけるだけという愚は犯さなかった。

昨シーズンも強かったが、無敗のまま優勝を果たした今シーズンのバイエルンはもっと強かった。圧倒的な戴冠劇の勝因に迫る。 (C) Getty Images

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 3月25日のブンデスリーガ27節、バイエルン・ミュンヘンはヘルタ・ベルリンを3-1で順当に下し、通算24度目の優勝を史上最速で決めた。28節での戴冠という、昨シーズンにみずからが打ち立てた記録を、さらに塗り替えてみせた。開幕から一度も負けることなく首位を独走しつづけ、リーグ戦19連勝、52試合連続無敗など数々の記録を更新する、まさに圧倒的な優勝だった。

 とはいえ、序盤からすべてが順調だったわけではない。今シーズンから指揮を執るペップ・グアルディオラが引き継いだのは、ユップ・ハインケス前監督がクラブ史上初となる3冠(ブンデスリーガ、DFBカップ、チャンピオンズ・リーグ)に導いたチームだ。これ以上ないと思われる成績とパフォーマンスに酔いしれたサポーターの間では、「バルセロナで黄金時代を築いた実績があるとはいえ、それは超えられないだろう」という意見が多かった。

 事実、開幕前のドイツ・スーパーカップでドルトムントに2-4で敗れ、ボルシアMGとの開幕戦も勝ったとはいえ不安定な戦いぶりに終始した。懐疑的だった識者は、それこそ舌鋒鋭く、鬼の首を取ったかのような筆致で書き立てた。

 グアルディオラ自身も優勝決定後、「前半戦は怪我人が多く、トップレベルではなかった」と認めている。それでも、「我々にはとにかく時間が必要だ」と事あるごとに繰り返し、我慢強くチーム作りを進めていった。

 完全主義者と言われるペップだが、自分の哲学をただ押しつけるだけという愚は犯さなかった。戦術が浸透しきっていない序盤戦、「ドイツ・サッカーはスペインに比べてカウンター重視の傾向がある」事実を理解すると、攻守のバランスを取りやすいダブルボランチを採用する。守備を固める相手に手を焼けば、マリオ・マンジュキッチ、クラウディオ・ピサーロ、トーマス・ミュラーといったヘディングが強い選手を積極的に投入し、ロングボールも武器のひとつとして活かす手腕を見せた。

 そうしながら、徐々にチームに自分の哲学を植え付けていった。「中盤での数的有利が決定的な要素になる」と語るグアルディオラは、センターハーフにフィリップ・ラーム、チアゴ・アルカンタラ、トニー・クロース、マリオ・ゲッツェという高い技術と広い視野を併せ持つ選手を配置。サイドバックもワイドに開くだけではなく、積極的なビルドアップへの参加を求めた。

 アウトサイドのフランク・リベリやアリエン・ロッベンにも、敵を走らせ、相手の狙いが絞り切れないようにと、シンプルなパス回しを徹底させた。ミスがあってもすぐに奪い返しに行けるようにポゼッション時の選手間の距離に気を配り、攻守の切り替えの重要性を強調しつづけた。

 試合を重ねるごとに戦術理解は深まり、個と組織の融合は進んでいった。バスティアン・シュバインシュタイガーの戦術眼に依存することが多かった昨シーズンと違い、今シーズンはチームとしてのゲームコントロール能力が格段に向上。そのため、誰が出場しても同じイメージで攻撃を組み立てることができている。

 選手を分け隔てなく起用してモチベーションを高く保ち、健全なポジション争いで刺激を与えつづけた舵取りも、高く評価されてしかるべきだ。一般的に称賛されているラフィーニャの才能を引き出し、ラームの可能性を広げた采配のほかにも、トム・シュタルケ、ディエゴ・コンテント、ダニエル・ファン・ブイテン、ジェルダン・シャキリ、ピサーロらバックアップメンバーが確実にレベルアップしているのが素晴らしい。

 こうしたグアルディオラの手腕を、スポーツディレクターのマティアス・ザマーも手放しで絶賛する。
「昨シーズンの成功から、さらに高い目標に向かって働いてきた。そして昨年よりもさらに早い時期に優勝できた。素晴らしい達成であり、みんな幸せだ。昨シーズンはユップ・ハインケスとともに重要な基盤を作ることができた。今シーズンはペップ・グアルディオラの指導のもとで我々は変化し、チームはさらに成長した。ペップはただの専門家ではなく、ファンタスティックな人間だ」

 ヨーロッパ・スーパーカップ、クラブワールドカップに続いて今シーズン3つ目のタイトルを手に入れたグアルディオラは、
「優勝できてとても満足している。この可能性を与えてくれたクラブに感謝したい。素晴らしいプレーを見せてくれた選手に、おめでとうと伝えたい。選手はそれぞれに気持ちと特徴を出してくれた」
 と控えめに喜んだ。

 リーグ優勝というノルマは果たした。バイエルンは残るDFBカップとチャンピオンズ・リーグの2大会に照準を合わせ、さらに走りつづけていく。

【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス保持者。2001年にドイツに渡り、SCフライブルクでの実地研修を経て、フライブルガーFCのU-18監督などを歴任。13-14シーズンからU-19ブンデスリーガ3部に所属するFCアウゲンでヘッドコーチを務める。1977年生まれ。
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